第2篇:Head Games(心理戦)

『Beast Wars: Uprising』第2篇
原題:Head Games

原作:David Bishop & Jim Sorenson
日本語翻訳:春光カコ
日本語翻訳・Web掲載許可取得済み

あらすじ

《ゲーム》の元優勝者バズクローは、かつての栄光にすがりながら、開放都市ダマクサスで冴えない日々を送っていた。
ある日、友人サーケットの影響でライオコンボイ率いるレジスタンスと接触し、巨大ビルダー《フォートレスマキシマス》への潜入作戦へ参加することになる。
しかし、その内部で待ち受けていたのは、武力だけでは抗えない恐るべき“心理戦”だった。

本文

Transformers Timelines Presents:
『トランスフォーマー・タイムラインズ』がお届けする:

Head Games
『心理戦』

A Tale from Beast Wars: Uprising
『ビーストウォーズ:アップライジング』より第二篇

■p1~3
爆発が炸裂し、バズクローは思わず顔をしかめた。つい先ほどまで身を潜めていた鉄骨が砕け散り、その破片が全身に降り注ぐ。
交戦中のマクシマルには、まだ砲弾が二発ほど残っている。遮蔽物のない場所に飛び出すわけにはいかなかった。身を隠せる場所を確保し、敵に見つからないよう移動しなければならない。

反射的に武器の弾薬残量を確認する。だが、表示された数値は相変わらずゼロのままだ。

二枚一組のイオンディスクは、不運なダイバーを解体するために使い切ってしまっていた。水棲型のオルトモードを持ちながら、一滴の水さえない数少ない闘技場のひとつへ放り込まれたマクシマルだ。
ダイバーは油圧液を派手に撒き散らしながらバラバラになり、その光景は観客を大いに沸かせた。バズクローも勝利に歓喜したものの、回収したディスクにはどちらもエネルギーが残っておらず、再起動に回せるだけのエネルゴンの余裕もなかった。

もともと扱いづらく、気分のいい武器でもない腐食性の吐瀉液も、アーマディロを大きく外して自分の居場所を知らせただけに終わった。
それ以来、頼れるのは自慢の鉤爪だけ。ゲームの大半を隠れて過ごす羽目になった。

だが、もう逃げ場はない。
自分か、アーマディロか。殺すか、殺されるか。

バズクローは昔から熱烈なプレダコンびいきだった。ゲームは欠かさず観戦し、メモリーチップには過去の試合の統計とデータがぎっしり詰まっている。

だからこそ、今回の勝負がいかに接戦であるかも理解していた。
ドラフトは好勝負になるよう仕組まれていたものの、最後にプレダコンとマクシマルが一対一で対峙する展開になることなど、滅多になかった。

観客としてなら、さぞかし胸を躍らせたことだろう。

だが、いざ自分がその当事者となってみれば、恐怖でたまらなかった。

アーマディロは、吐瀉液の一件以来じっくりとバズクローを追い詰めていた。奇襲でドランクロンからミサイルランチャーを奪い取った今、位置も火力も向こうが上だ。

地面すれすれを這いながら、バズクローは半ばパニック状態で自己診断を走らせた。武器はもはや使い物にならなかったが、彼自身の状態は悪くない。
装甲にはいくつかの切り傷や焼け跡ができていたものの、機体の構造的完全性は少なくとも九十六パーセントを維持している。スパークも力強く脈動していた。
エネルゴンの残量は望ましい水準を下回っていたが、アーマディロだって、少なくとも同じくらいには消耗しているはずだ。文句を言えるような状態ではなかった。
だが、敵との距離を詰められなければ、そんな数字には何の意味もなかった。

バズクローは車載コンピューターに蓄積されたデータを次々と調べていった。その大半は、過去のゲームで収集したものだ。だが、残念ながら今の状況に当てはまるものはほとんどなかった。
募る恐怖の中、バズクローはある事実に気づいてしまった。プレダコンであれマクシマルであれ、統計的に今の自分と同じような状況から勝利を収めた出場者など、これまで一度も見たことがなかったのだ。
いっそ自分の敗北に大金を賭けてやりたい、と心の片隅で思った。もっとも、フロストバイトなら間違いなくオッズを調整しているだろうから、たいした配当にはならないだろうが。

左手には、とうの昔に放棄された住居があった。錆び果てた抜け殻のような建物で、実際のところ、平屋の掘っ立て小屋と呼ぶのがせいぜいだ。ゲームに戦術的な変化を持たせるため、ビルダーたちがわざわざ設置したものなのかもしれないが、バズクローには知る由もなかった。

狙いすましたミサイルの直撃を防げる見込みは、ほとんどないだろう。だが、近くで爆発した際の衝撃や破片から身を守る程度なら、遮蔽物として役に立つかもしれない。

バズクローは、かつて玄関扉があったはずの開口部から、這うようにして中へ入った。
もっとも、扉のスライド機構は腐食し、動力も失われていたため、開いたまま永久に固着していたのだが。

彼は暗い隅へと身を寄せると、センサーの探査範囲を外へ広げた。
それは、危険と見返りを秤にかける、厄介な賭けだった。そして、今のバズクローが最もやりたくないことのひとつでもあった。
もしアーマディロが適切な周波数を探し当てていたなら、バズクローの電磁信号を正確に捕捉し、寸分違わぬ精度で砲撃を浴びせることができるのだから。

搭載コンピューターは収集した情報を解析し、オプティックから送られてくる映像の上に小屋の向こう側に広がる闘技場の様子を、半透明の像として重ね合わせた。

アーマディロは動いていなかった。
奪い取ったミサイルランチャーを左右に振りながら、もっと原始的な――目視によって、バズクローの位置を確認しようとしている。
ならば、こちらに分がある。
ただし、遠距離攻撃用の武器を失っている以上、大した優位でもなかった。

部屋の隅に、錆びた金属の杭が一本転がっていた。武器として使わせるためビルダーが置いたものなのか、単なる瓦礫なのかはわからない。だが比較的まっすぐで、十分な力を込めれば投槍として使えそうだった。

バズクローはその即席の武器を掴むと、慎重に、極めてゆっくりと建物の裏窓から外へ抜け出した。

センサーの走査によれば、アーマディロは依然としてその場でじっと待ち構えていた。エネルゴンを節約しながら、辛抱強くこちらの出方を窺っているのだ。

その顔に浮かぶ、いかにも奴らしい嘲るような笑みからは、火力で勝る自分が最後には勝利するという自信が見て取れた。
――まあ、実際そうだろうな。バズクローは頭の中だけで、そう呟いた。

マクシマルは視界を広く取るため、闘技場の開けた場所に陣取っている。遮蔽物は皆無。隠密を利用した攻撃など、最初から不可能だった。

バズクローは変形コグを可能な限り高速で回転させ、跳躍する。機体が組み変わり、オーニソプター型のオルトモードへ変形した。飛行速度も機動性もたいしたものではない。だが距離はそう長くないし、死地まで歩いていくよりはずっとましだ。

バズクローは、地表を覆うボット大の瓦礫を飛び越え、超音波の金切り声を攻撃に加えた。ホワイトノイズによってアーマディロのセンサーを攪乱しようという狙いだ。
橙と緑のプレダコンは、オルトモードでも残るマニピュレーター・アームの一本を掲げ、杭を投げる体勢に入る。

その瞬間、マクシマルが勢いよく振り向き、発砲した。
放たれたミサイルは、ほんの一瞬で両者の距離を食い潰し、バズクローの身体のど真ん中を直撃した。
赤い緊急警告のグリフが視界一面にはじける。損傷制御システムは電子的なパニック状態に陥った。
地面からほとんど高度を取れていなかったため、バズクローはきりもみ状態に陥ったかと思うと、あっという間に闘技場の床へ叩きつけられた。墜落の衝撃でマニピュレーター・アーム一本と翼の半分が吹き飛ぶ。

本能的にロボットモードへ戻ろうとする。変形シーケンスが、砕けた部品、あるいはもう存在しない部品を探り回るたび、バズクローは悲鳴を上げた。

それでも立ち上がった。
片腕を失い、視界の半分を失いながら。
そして、ようやく身体を起こしたその瞬間、勝利を確信したアーマディロが、モーニングスターを勢いよく振り回しながら突進してくるのが見えた。

バズクローは情けないほど弱々しく鉤爪を上げ、防ごうとした。

モーニングスターが損傷した肩を捉える。
肩は砕け、冷却液が辺り一面に噴き出した。

膝をついた瞬間、もう終わりだと理解した。

もしこれを観客席から見ていたなら、バズクローの心は二つに割れていただろう。プレダコンの敗北――そしておそらく数クレジットの損失――への落胆と、ボットがばらばらにされる光景を目にする原始的な興奮。
だが、今ばらばらにされようとしているのは自分だ。
望むことはただ一つ。
アーマディロが、せめて手早く終わらせてくれること。

光学系を落とす。マクシマルが原始的な武器を振り上げる姿など見たくなかった。だが繊細な頭部回路が粉砕される、吐き気を催すような音までは遮断できない。
――それでも。

まだ自分がオンラインだと気づくまで、少し時間がかかった。

ゆっくりと、片目を覆う装甲シャッターを開く。
目の前には、信じられないほど驚愕した一対の光学センサーがあった。
アーマディロが転んでいた。
最後の瞬間、バズクローの折れた翼につまずき、前のめりに倒れ、モーニングスターを取り落とした。そして、あり得ないほど都合のいい巡り合わせで――バズクロー自身、拾ったことさえほとんど忘れていた鉄杭が、アーマディロの喉と主エネルゴン導管を貫いていた。

エネルゴンが漏れ出し、車載コンピューターが基礎機能を維持するだけでも苦戦する中、バズクローのセンサーは途切れ途切れにしか働かなかった。

彼は、自分が勝ったという事実を、まるで計算できないほど呆然としていた。

スーパーソニックが傷ついた鉤爪を掲げて勝利を宣言した時も、その熱狂ぶりをかろうじて認識できる程度だった。ビルダーを満足させるための儀礼的なやり取りが一通り終わると、損傷制御システムが甲高い警告音を上げ、そして彼は、重い毛布をかけられるかのように、ステイシス・ロックが自分を包み込んでいくのを感じた。


■p3~4
「わかんないなあ」

「何が?」

バズクローは首を振った。現実へ引き戻されたことに、少し苛立っていた。

「だって……あんた、ほとんど死にかけてたじゃん……」

黄色と緑のプレダコンは、猫背になった車輪付きの肩をすくめる。
バズクローは理解不能といった顔で相手を見返した。
「そうだけど、勝っただろ」

彼は再生中の映像を一時停止すると、サーケットに向かって瞬きをした。
「俺、勝ったんだぞ?」
「知ってるけど……でも……あれって百恒星周期くらい前じゃなかった?」

バズクローは心底憤慨し、思わず声を詰まらせた。
「十二周期も経ってない!」

「じゃあさ、この前ニュースでライオコンボイが言ってたこと、どう思う? 全部仕組まれてるって。ゲームは八百長だって話」
「あれは完全なでっち上げだ! 俺が命懸けで戦ってたのを見れば誰だってわかる!」

サーケットは光学センサーを細める。
「でもさ……アーマジロが――」
「アーマディロ」
反射的に訂正する。

「――アーマディロが、あんなふうに勝手につまずいて転んだのって……ちょっと考えちゃうじゃん」
「つまずいて……? いいか、あの杭は俺が意図的にあそこへ置いたんだ。あいつは俺の完璧に作り上げた罠へ落ちた。スーパーソニックもそう言ってただろ。聞いてたじゃないか」

――そうだ。
そして俺自身も、もう少しで信じられそうだ。

サーケットの大きな光学センサーには、疑いの色がありありと浮かんでいた。
「うん……まあ……そうかもね……」

そこへバー・ボットが、二人のそばへとすり寄ってきた。
《プロトン・ブラスター》の店主、ダイポールだ。

ひょろりと細長い身体に、長く伸びた手足。そして、ひときわ目立つオプティックを持っていた。
そもそも変形形態を持たないのか、それとも何らかの無線アンテナに変形するのか、見た目からは判然としない。
その身にはどの陣営のエンブレムもなく、マクシマルなのか、プレダコンなのか、あるいはビルダーなのかを尋ねても、まともな答えが返ってきたためしがなかった。

ダマクサスは、数少ない開放都市のひとつだ。
彼女はそのいずれであってもおかしくなかったし、あるいは、そのどれでもないのかもしれなかった。

「まさか、またその古い映像を見てるんじゃないでしょうね?」

声はスピーカーから発せられていた。
そこには表情を形作る唇も顎もなかったが、それでもその声は、無関心と軽蔑の入り混じった響きを、見事なまでに伝えていた。

「何だって? 何のことかわからないな!」
バズクローは憤然とした。
「この映像を見るのなんて……」

もっともらしい答えを探して、言葉に詰まり
「……久しぶりだ」
情けなく言い終える。

「ほらね」とダイポール。「自分用のビッドスクリーン買えば? いつもここで《勝者手当》を見せびらかしてるじゃない」
「いや……だって、ここスポーツバーだろ? 違うのか?」
バズクローはサーケットへ目を向けた。

彼女は今、考え得る限り最悪の表情――心の底からの、憐れみ――を浮かべていた。
「いや、違うんだ、その……」
バズクローは、サーケットの関心が自分から離れていくのを感じていた。
すべて、この馬鹿なバー・ボットのせいだ。
「おい、お前。いいから……給仕に戻れ。さもないと俺は……」
「さもないと、何?」
ダイポールは平然と切り返した。
「あんた、毎日毎日ここに入り浸ってるじゃない。アベルズ・エネルゴンに行ったところで、向こうがあんたを歓迎してくれるとでも思ってるの?」
「さもないと……ものすごく気前のいいチップをやる……」

ダイポールは引き下がった。
これでどうにか切り抜けた、とバズクローは思ったが、どうやら小声のつもりが小さくなかったらしい。サーケットはもう立ち上がり、肩の車輪を整えながら帰る支度をしている。

「ありがとう、バズクロー……。なんていうか、今夜は……」
彼女はそこで言葉を途切れさせた。
いったい、どんな夜だったと言えばいいのか。その答えを探しているらしい。
「……なかなかの夜、だった……かな?」
最後まで、ひどく自信なさげに締めくくった。

「お、おい、待てよ、サーケット! 大丈夫だって……まだクレジットあるから。もう一杯どうだ?」
慌ててバー・ボットへ振り返る。
「俺、まだクレジットあるよな?」
ダイポールの光学センサーが曇る。バズクローのツケを確認し、悲しそうに首を振った。

「ありがと。でももう行かなきゃ。私、ちょっと……」
そこまで言うと、サーケットは消えた。
バーのポータルがシュッと音を立てて閉まる。

バズクローはがっくりとうなだれ、再びカウンターへ向き直った。
「優勝者手当は明日入る。本当だ、誓うよ」
そして言う。
「だから、今夜もう一杯だけどうだ? 代金は明日の朝、口座から引いていいから」


■p4~5
サーケットは、体内のクロノメーターを確認した。急げば、まだヴァンプたちとの待ち合わせに間に合う。
バズクローなんかに、こんなに時間を使った自分を呪い、その直後、そんなふうに考えた自分をもう一度呪った。
本当はバズクローのせいではない。
闘技場で勝ったことだけが、彼を社会のその他大勢――機能主義にも似た、最低限の生活を強いられる存在――から切り離していた。
かつての栄光にすがって生きているからといって、誰が本気で責められるだろう?
そんなことを考えていた時、ふと、どこからか口笛のような音が聞こえてくることに気づいた。

サーケットが顔を上げると、
黒い何かが、猛烈な勢いで降下してきている。

彼女はその場に釘付けになり、ただ見つめていた。

その黒い影は、いくつもの小さな影へと分かれ――爆発した。

サーケットは油にまみれた金属の路面へと身を投げ出した。周辺に瓦礫が雨のように降り注ぐ。彼女は翼を大きく広げ、身体の脆い部分を覆い隠す。

危険を承知で顔を上げると、そこにはパニックに陥り、右往左往するボットたちの姿があった。変形して走り去る者、ただ遮蔽物へ駆け込む者。
中には、フィードバックループに陥り、光学センサーを虚ろにしたまま路上へ座り込み、何が起きたのか理解できずにいる者もいた。
サーケットは鉤爪のついた足で勢いよく立ち上がると、走り出した。


■p5~8
一方バズクローは、ダイポールの思いがけない気前のよさに感謝し、容器を掲げようとした、まさにその時だった。

爆発の衝撃が襲った。

床が震え始め、壁に飾られていた過去のゲームの記念品が、がたがたと音を立てて落ちてくる。
「……いったい何が入ってたんだ、これ?」
バズクローはぼそりと呟き、空になった容器の底を覗き込んだ。
視界には、皮肉など解するはずもない毒性警告が次々と点滅していた。彼が燃料ポンプに流し込んだ物質が、化学組成の面でいかに粗悪な代物であるかを、わざわざ知らせてくれているのだ。

バズクローはバー店内を見回した。
他の客たちも、きっと何が起きたのかわからず呆然としているだろう。
あるいは身を伏せて頭を守っているかもしれないし、突然の衝撃に驚いて笑い出している者だっているかもしれない。

だが、違った。

客たちは皆、バーの映像スクリーンを食い入るように見つめていた。口のある者は、その口をぽかんと開けたまま。

「始まった」
誰かが言った。
「とうとう戦争だ」
「まさか」別の声が重なる。「ライオコンボイって、ただのイカれた奴なんだろ?」

その時、入口のドアが勢いよく開いた。

サーケットが戻ってきたのだ。
そのオプティックには、尋常ではない切迫した色が浮かんでいた。
彼女は背後のドアを叩きつけるように閉めると、すぐさま施錠シーケンスを作動させた。
「……大変なことになってる」

サーケットはそう言った。
だが、あまりの衝撃に、それ以上はほとんど言葉にならないようだった。

バズクローは、周囲のざわめきから映像スクリーンの音声だけを拾おうと、必死に耳を澄ませた。
「この卑劣な攻撃は、政府の主要施設数か所に被害をもたらした、無差別かつ広範囲にわたる破壊行為です。攻撃に伴い、各地では大規模な混乱が発生しています。さらに、この状況につけ込もうとする暴徒たちの動きも確認されています。我々は、戦うことのできる機体を持ち、自由を愛するすべてのサイバトロン人に呼びかけます。武器を取り、これらのテロリストに立ち向かってください。そして、この自称『レジスタンス』が我々の生活をさらに混乱させる前に、徹底的に叩き潰すのです!」

その時、再び爆発が起きた。

映像スクリーンは激しいノイズを走らせ、ぷつりと消えた。
「奴ら、こっちに近づいてるぞ!」
群衆の後方から、背中を丸めたカニのような姿のボットが叫んだ。
「誰が近づいてるって?」
バズクローは尋ねようとしたが、誰も彼の話など聞いていなかった。

代わりに、その場にいた者たちは、それぞれ思い思いの形でパニックに陥っていた。

三度目の爆発が起きた。

今度は、さらに近い。

バーの中央では、バズクローも何度か言葉を交わしたことのある、大柄でのんびりした性格のマクシマルが、反射的に変形してしまった。頑丈な全地形対応車両となり、バーのど真ん中を塞ぐ。
「レジスタンスだ! いや政府軍か……両方かもしれない!」
凶暴そうなプレダコン――名前はレックレスだったか、レクルースだったか、レックルースだったか――が入口へ向かって駆け出した。

彼を通すためにドアが滑るように開いた。
だが、彼がそこから踏み出せたのは、わずか三歩だけだった。
エネルギー弾の一斉射撃が、その腰を薙ぎ、胴体が爆発する。緑と紫の破片が大きく弧を描いて四方へ飛び散った。

■p7
「スクラップ!」
バズクローはバー・ボットを探して辺りを見回したが、その姿はどこにもなかった。
ただ、いつも一角にじっと立っている繊細な彫像が、普段より少しだけ複雑な形になっている気はした。

「どうすりゃいいんだ!?」
ノックダウンという名のボットが、取り乱した声で尋ねた。

だが、バズクローには答える言葉がなかった。

恐怖によって彼の浄化回路は過剰なまでに活性化し、いくつもの内部システムから電力を奪い取っていた。そうして体内のエンゲックスを洗い流し、明晰な思考を取り戻そうとしていたのだ。
だが、残念なことに、頭が冴えたところで何か有益な情報が出てくるわけではなかった。

ただ、自分がどれほど絶望的な状況に置かれているのか、それがいっそう鮮明に理解できるようになっただけだ。

店内を満たす喧騒は、もはや耐え難いほどだった。
複数の周波数が同時に埋め尽くされ、データパケットが飛び交い、声にならない通信が解析不能なほど絶え間なく流れる。

それでも、二つだけははっきりしていた。
誰一人として、どうすればいいのかわかっていない。
そして、誰一人として、他人の話を聞いていない。

その時、不意に聞き覚えのある声が、耳をつんざくような喧騒を切り裂いた。
「バズクロー! あんた、チャンピオンなんでしょ!? 私たち、どうしたらいいの!?」

――やめてくれサーケット

――頼むから、今だけは。

「チャンピオンだって?」
「強かったのか?」
「そうだと思うけど、覚えてないな」
「まあ、チャンピオンならみんな結構強いだろ」
「きっと、どうすればいいかわかるはずだ」

――スクラップ。
バズクローが思いつけることといえば、もう一杯飲むことくらいだった。

だが今それを言うのは、たぶん最悪だ。
彼は音声プロセッサーのデフラグを行った。
「えー……レディーとジェントルボット諸君」
できる限り威厳のある声を作る。

「見ての通り、状況は……多少……危険になっている。そこで俺は、こう提案したい。我々が……その……」

「うん、それで?」
サーケットが促す。
先ほどまで彼の実力を疑っていたことなど、都合よく忘れてしまったらしい。

「……このバーに立てこもる、というのはどうだろう?」

どうしても疑問形になった。
だが驚いたことに、それでうまく通ったらしい。

「それなら俺に任せろ!」
バックストップという名の、がっしりとした体格の威勢のいいマクシマルが声を上げた。
彼はのっしのっしと入口へ向かうと、重い家具を運び、ドアの前に押し込んでバリケードを作り始めた。
「で、次はどうするんだ、ボス?」

「うむ……」
バズクローは、何か気の利いた言葉を探した。
だが、結局のところ、頼れるのはいつもの手しかなかった。
「我々は……酒でも飲みながら、この騒ぎが収まるのを待つ……というのはどうだろう?」

途端に、歓声が沸き起こった。
集まっていたボットたちは大喜びで、それぞれ勝手に酒を取り始めた。
どんちゃん騒ぎが始まると、部屋の片隅にあった針金細工のような彫刻が、ぴくりとわずかに動いたが、それを止めようとはしなかった。

■p8
それからさほど経たないうちに、バズクローは二十体ほどの客たちの中心に座り、オメガ・センチネルの機銃掃射を生き延びる最善の方法について熱弁を振るっていた。
とても楽しかった。
もちろんエンゲックスが回っているのも大きい。
だが何にせよ、バーは十分安全そうで、全員まだ無事で、機嫌もいい。
素晴らしい作戦だ。
自分は素晴らしいリーダーだ。

サーケットが、彼の肩を軽く叩いた。
「もうしばらく爆発も起きてないし、外で何が起きてるのか、そろそろ確認した方がいいんじゃない?」
彼女は真剣な口調で言った。
「……仕方ないな」
バズクローは、外で何が起きているのかなど知りたくもなかった。
ここにいれば、皆が自分の話を聞いてくれる。

こんなふうに自分を誇らしく思えたのは、いつ以来だろう。
おそらく、あのゲーム以来だ。いや、あの時でさえ、アーマーディロの死に方にはどこか釈然としないものがあって、勝利の喜びに影を落としていた。

バズクローは細心の注意を払いながら、窓辺へとにじり寄った。
鉤爪を金属シャッターへかけ、蝶番を軸に、ほんの少しだけ持ち上げる。

外は昼だった。
サイバトロンの弱々しい太陽が、荒れ果てた通りを銅色に染めている。
壊れた商店。ほかのバーの残骸。舞い漂う金属の削り屑の雲。そして、レックルースの身体の破片。そのすべてが目に入った。
だが、辺りは静まり返っているようだった。

「大丈夫?」とサーケット。「外に出られそう?」
バズクローの心のかなりの部分が、「駄目だ」と答えたがっていた。

だが、数クォートものエンジェックスが体内に入っている今でさえ、そんな計画が長続きするはずもないことくらいは理解できた。
「……そうだな。素早く、静かに移動するなら、大丈夫だと思う」

バズクローは、《プロトン・ブラスター》の店内を見回した。
さまざまな姿、さまざまな色をしたボットたちが、持ち物や物資、あるいは自分の身体の破片をかき集め、別れの挨拶を交わしては、次々と店を後にしていく。
この暴動がそもそも何のために起きているのか、バズクローにはおぼろげにしかわかっていなかった。
だが、これで終わりではない。そんな予感だけはあった。

ここにいる者たちとは、もう二度と会えないかもしれない。
それを思うと少し寂しかった。
だが反対に、全員がどこかで死んだとしても、少なくとも“最初の日を生き延びさせてくれた英雄”として自分を覚えていてくれる。

さまざまなマキシマルとプレダコンが変形し、走り、飛び、這い、駆けながらバーを去っていく。
気づけば残ったのは、サーケットと、夜通しほとんど口を開かなかった見知らぬ黒と灰色のマキシマルだけだった。
「ありがとう、バズクロー。すごかったよ」
サーケットが鉤爪で、そっと彼の腕に触れた。
「あんた、本当に勇敢だった」

誇りが胸を満たす。
それに値するかどうかなど、今だけは気にしないことにした。

見知らぬマクシマルが歩み寄り、値踏みするようにバズクローを眺める。
「彼女の言う通りだ。厄介な状況ではリーダーが必要だった。そして君は前へ出た。君なら、もっと大きなことを成し遂げられると思う」

「どうも……まあ、その、直感ってやつかな。悪い、名前を聞いてなかった」

「サイバーシャークだ。君がバズクローだな? 実はHQで、君のゲームを研究していた。アーマディロを倒した試合だ。俺がバーにいたのも、そのためさ。君に会いたかった」

サイバーシャークがにやりと笑う。
歯が、やたら多かった。

バズクローはできる限り胸を張った。サイバーシャークにもサーケットにも背丈では負けていたが、気分だけは大物だった。

「早く気づけなくて悪かったな。でも、見ての通り……」
彼は鉤爪を振り、空になったバーを曖昧に鉤爪で示す。

「忙しかったんだろ、わかってる。むしろ良かった。実際に動いているところを見られた。俺たちの目的には、その方が好都合だ」
サイバーシャークが片方の光学センサーを一瞬落とす。
サイバトロニアン流のウインクだ。
バズクローは思わず、顎を大きく開いて笑みを浮かべた。
だが、それでもいくつか疑問が残っていた。
「目的? HQ? お前、いったい何者なんだ?」
「ニュースくらいは見ているだろう?」
サイバーシャークが壊れたビッドスクリーンを指す。

「もちろん……たまには」

見ていない。
ゲームは見る。ニュースもゲームの話題なら見る。
だいたいそれだけだ。

「なら、あんなものは全部スクラップだとわかるはずさ」
サイバーシャークは言った。
「サイバトロンは今、断崖絶壁の縁に立たされている。そして俺は、この星がそこから転げ落ちる時、それを受け止めようとしている組織の代表だ」

バズクローの中で、ようやく話が繋がった。

「レジスタンス……ライオコンボイか。でも俺は……」

「爆破事件の黒幕が、俺たちの仕業だと思っていた? あの一連の襲撃も?」
サイバーシャークは肩をすくめる。
「嘘をつくつもりはない。そんな嘘でごまかせるほど、君は愚かじゃないだろうからな。――そうだ。俺たちがやった。
ビルダーたちが、何もかも支配している。そんなことは、今さら説明するまでもないだろう?奴らは俺たちを戦わせ、死なせる。もちろん、自分たちの娯楽のためでもあるが、それ以上に重要なのは、自分たちの安全を守るためなんだ。俺たち同士で戦っている限り、奴らに刃を向けることはない。
しかも、その争いがきちんと組織化されていれば、なお都合がいい。取り締まりも、それだけ容易になる。」
「チャンピオンであることを楽しんでいたんだろ。それは理解する。責める気もない。
君は立派に戦って、当然の勝利を手にしたんだ。
だが、ひとつ聞かせてほしい――次にドアを叩く奴が、《カリング》への招集を告げるんじゃないかと怯えて暮らしていなかった、と言えるか?」

バズクローは何も答えなかった。
否定はできない。
エンゲックスや賭け事で鈍らせていない限り、その恐怖は稼働時間のかなりの部分を占めていた。

「ライオコンボイは真実に気づき、俺たちに道を示している。戦わなきゃならない。言葉や交渉でビルダーを倒すことはできない。奴らは今のように衰え、死にかけの状態になるまで、何百万年ものあいだ戦争を続けてきた。戦いこそが、奴らに通じる唯一の言葉なんだ」

サーケットの棘の生えた口が、大きく開かれているのが見えた。
彼女はサイバーシャークの言葉を、一言たりとも聞き逃すまいとしていた。

その姿を見たバズクローの胸に、誇らしさと嫉妬が入り混じった感情が湧き上がる。
「……それで、俺に何をさせたい?」

サイバーシャークはバズクローの両肩をがしりと掴み、光学センサーを真正面から合わせた。
「言っただろ。君の勝利を研究した。
俺たちは確かに、いくつかの成果を上げている。だが、まだ仲間の数が少ない。優れた戦士、優れたリーダーがいなければ、生き残れない。だから何人かで手分けして、かつてのチャンピオンを勧誘して回っている。そして俺は――君を選んだ」

サーケットは興奮のあまり、今にも身体を震わせそうな勢いでバズクローへ振り向いた。
「絶対にやるべきだよ。絶対!」

二人を交互に見て、バズクローは悟った。
自分自身に、断るという選択肢を与えるつもりはないらしい。
軍人らしい友情を演出するつもりでサイバーシャークの肩を叩いた、その後になって初めて気づいた。
自分が何に同意したのか、実はまったくわかっていない。


■p9~11
それから数メガサイクルは、ほとんど記憶に残らないほど目まぐるしかった。
サイバーシャークは友好的ではあったが、とにかく速さと隠密行動を優先することだけは譲らなかった。
爆撃された通り、バリケードで封鎖された交差点を抜け、地下へ潜る。
そして、何の脈絡もなく思える場所で下水管の中へと入り、サイバーシャークの潜水モードにしがみついて、汚泥と錆びた削り屑の中をさらに深く進んだ。
サイバトロンの冥府じみた地下へ。
やがて彼らが辿り着いたのは、太古のMTSターミナルだった。
数百万恒星周期も前に建設された、ガラス質のチューブが惑星の地下を縦横無尽に走る交通網の一角である。
サイバーシャークは歯を剥き出しにして笑うと、ドアの開いたバレットカーを手で示した。
「レジスタンスは、いくつかの路線を修復したんだ。おかげで、もうずいぶん前から、誰にも気づかれずに都市から都市へと移動できるようになっている」

車内では、誰も口を開かなかった。

バズクローもまた、物思いに沈んでいた。

そのバレットカーは、彼らが乗るにはあまりにも大きすぎた。
黄金時代にビルダーの体格に合わせて造られたものなのだ。
その広すぎる車内にいると、自分がひどく取るに足らない存在であるかのように感じられ、バズクローは、そんな感覚があまり好きではなかった。

やがて一行は、どこかへと到着した。
もっとも、それがどこなのか、サイバーシャークは曖昧にしか教えてくれなかったが。

そこからは、来た時とは逆に、地上を目指して登らなければならなかった。
骨の折れる道のりを、ひたすら地表へ向かって進んでいく。

この旅は永遠に終わらないのではないか。
バズクローがそう思い始めた、まさにその時だった。
サイバーシャークが片手を上げた。

「……もう着いたのか?」
バズクローは尋ねた。
どうか泣き言のようには聞こえていませんように、と願いながら。

サイバーシャークは、直接無線通信を開いた。
『もう、すぐそこだ』
どうやらサイバーシャークは、彼にしか感知できない何らかの信号を待っていたらしい。
彼は慎重に左右を走査すると、ボットホールの蓋をこじ開け、二人に中へ入るよう促した。

そこには錆びついた梯子があり、辺りは一寸先も見えない闇に包まれていた。
バズクローは視覚を赤外線モードへと切り替えた。
すると、長年の風化と放置によって腐食した、狭い縦坑が浮かび上がった。
その先には、意外なほど近代的な防爆扉が設けられている。

サイバーシャークは自分の指先のひとつをくるくると回して取り外すと、その下から現れたデータジャックを、扉のロックへと差し込む。
防爆扉はシュッと音を立てて開き、バズクローは再び光に包まれた。

レジスタンスの本部は、活気に満ち溢れていた。
あらゆる姿、あらゆる大きさ、さまざまな構造を持つプレダコンやマクシマルたちが、歩き、車輪を転がし、あるいは羽音を響かせながら、別の用途に転用されたポンプ施設の中を行き交っている。
施設そのものが、途方もなく古いものであることは明らかだった。
幾世紀にもわたって有毒な排水に晒され続け、あちこちが腐食し、朽ちかけている。
だが、その内部には、外部から持ち込まれた最新式のコンソールや電源装置が据え付けられていた。
おかげで室内は、インフォグラフィックや帯状の照明が放つネオンの光に、明るく照らし出されていた。

バズクローは、自分がぽかんと口を開けていることに気づいた。
慌てて表情を引き締め、わざと素っ気ない態度を取る。
こんな光景など、日常茶飯事だとでもいうように。

だが、サーケットには、そんな努力をする気がなかった。
「すごい……!」
彼女は興奮を隠しきれない様子で声を弾ませる。
「こんなにたくさんのボットが一か所にいるの、初めて見た!」

考えてみれば、サーケットの言うとおりだった。
地上ではエネルゴンの供給があまりにも逼迫しており、政府の保安部隊による巡回も、至るところに及んでいる。
ゲームの観戦でもない限り、これほど大勢のボットが一堂に会し、活発に動き回る光景など、まず目にすることはなかった。
ほとんどの者は、自分の殻に閉じこもり、住み慣れた地区から出ようともしない。
マクシマルとプレダコンが交流することも、バーのような中立地帯を除けば、滅多になかった。
誰もが、見知らぬ者の注意を引くような真似は決してしなかった。それが厄介事を招く相手かもしれないからだ。
だが、ここでは違う。マクシマルとプレダコンが、肩を並べて働いていた。
しかも、誰もが山ほどの仕事を抱えているように見えた。

「見た目は立派だが」とサイバーシャーク。
「言った通り、人手が圧倒的に足りない。そこで君の出番だ。さあ、来てくれ。会わせたい人物がいる」

その「人物」というのは、威厳に満ちた佇まいの、赤と白のボットだった。
バズクローは、その姿を間違いなくニュースで見たことがあった。

鉤爪を上げる。
「まさか……」

「ライオコンボイ……」
サーケットが息を呑む。隠そうともしない畏敬が声に滲んでいた。
「レジスタンス最高司令官……」
マキシマルの光学センサーがやわらぎ、小さく笑う。

「そう呼ぶ者もいるね。確かに。もっとも、そう呼ぶのは主にプレダコンたちだが」
そして、穏やかに続けた。
「お会いできて光栄だ。君は……」

「サーケット」
「なるほど。では君は?」
「バズクロー」

敬礼したくなる衝動を必死に堪えた。
「素晴らしい。こちらの顎の立派な友人から、君が我々の小さな計画に力を貸してくれると聞いた」
「まあ、自分にできることをするだけさ」
口にしながら、バズクローは内心で身悶えした。
――こんなのは、自分らしくない。

そもそも昨晩サーケットに出会うまで、レジスタンスの存在などほとんど意識したこともなかったのだ。

――いったい俺は何に首を突っ込んでる?

「それを聞いて、実に心強く思うよ」

ライオコンボイは続けた。

「君もよく知っていることと思うが、事態は深刻だ。我々を虐げる者たちは、今なお我々を、身の程知らずの急進主義者としか見ていない。確かに、我々は各地の小競り合いで勝利を収め、奴らの活動を妨害することにも成功している。
だが、それでは長期的な展望が立たない。今のところ、奴らにとって我々は、せいぜい目障りな存在にすぎないのだ。この数百周期のあいだに直面した、最大の厄介事ではあるだろう。だが、それでもなお、すぐに鎮圧できる程度の存在だと考えている」

その言葉に込められた切迫感が、彼の穏やかで高潔な佇まいを、ほんのわずかに突き破った。

黄色いオプティックが、激しい光を宿す。

彼は、決して陽気なボットではなかった。
どこか物憂げで、過ぎ去った何かを惜しむような雰囲気をまとっている。
だが同時に、その身には不思議なほどの熱情が秘められていた。

その眼差しを向けられていると、まるで自分こそが、ライオコンボイがこれまで言葉を交わしてきた中で、最も重要なボットであるかのように感じられるのだ。

バズクローは、めったに他人を好きにならなかった。
なかでも、独善的で説教臭いマクシマルなど、最も苦手な相手だった。

それなのに今、ライオコンボイの信頼に応えたいと思っている自分がいた。

「だからこそ、奴らがまだ我々を侮っている今のうちに、足場を確固たるものにしなければならない。そのためには戦士がいる。勇敢に戦う兵士がいる。戦術家がいる。そこで、君の力を借りたいのだ」

ライオコンボイは、そこで言葉を切った。
演説になりかけていることに気づいたらしい。

「もっとも、詳しいことは後のブリーフィングで聞いてもらえるだろう。すまないが、私はサイバーシャークと話し合わねばならないことが多くてね。ここで失礼するよ」

二人の背後で下水道の重々しい扉が転がるように閉まると、サーケットは興奮のあまり今にも飛び跳ねそうな勢いで、バズクローへ振り向いた。
「本人だった! すごい!」

バズクローは、ライオコンボイとの短い会話が自分に与えた影響から、まだ立ち直れていなかった。
間違いない。あのマキシマルには、人を惹きつける力がある。

ふと、ほんのひととき《プロトン・ブラスター》の守護者を務めていた時のことを思い出し、嫉妬めいた感情が湧くのを押し殺す。
「つまり、この辺じゃあいつが一番偉いのか?」
「……つまり、あいつがこの辺りの大ボスってわけか?」
内心ほど動揺していないよう、わざと軽く言った。

「冗談でしょ? “あの人”だよ。これ全部ができてるのは、あの人がいるから」
サーケットは、忙しなくボットたちが行き交う下水道の合流地点を、鉤爪でぐるりと示した。

「ライオコンボイがビルダーの腐敗を暴いて、みんなに見せた。それで今は先頭に立って戦ってる。まさか、そこまで知らなかったの?」
疑わしそうに光学センサーを細める。

「知らないわけないだろ。ただ……思ってたのと違ったっていうか」
政治にはほとんど関心がなかったバズクローだが、あの最後のゲームと、ライオコンボイの告発を巡る騒動、その後の政府の反発くらいは知っていた。
もっとも、その記憶の大半はエンゲックス越しのぼんやりした記憶だった。
当時のバズクローにとって一番大事だったのは、スタジアムで起きた暴動と、その後ほとんどの出場者が脱走したことが、自分のかなり大きな“プレダコン勝利”への賭け金にどう響くかだった。

あれほど確実に見えた賭けもなかった。
レイジは港湾都市トライアックスを事実上征服し、自らその女王を名乗るところまでやってのけていた。
そんな彼女が、臣下の一人に代わって自ら志願し、ゲームに出場すると知った時、バズクローは大金を賭けるべきだと確信した。

実際、レイジは最後までその場に残っていた。オートスティンガー、ナイトバイパー、スカージとともに。
そして、マクシマル側の出場者が全員逃亡したのを目の当たりにして、自分たちの勝利を宣言したのだ。

だが、バズクローの賭けを引き受けた胴元、フロストバイトは頑として譲らなかった。
ビルダーがどちらか一方の勝利を正式に宣言しない限り、ゲームの結果は未確定であり、賭け金も払い戻せないというのだ。

だからこそ、昨晩のバーで、バズクローの懐具合はあれほど危うい状態に陥っていたのである。
「……それにしても、なんでそんなに興奮してるんだ?」
そう尋ねて、ここ数時間一緒にいたのに、サーケットのことをほとんど知らないことに気づく。

「本気で言ってる?」
彼女は声を上げた。
「だって、やっと何かが動き始めたんだよ。ほんの数日前まで、私の将来に待っているものといえば“いつかクソみたいなゲームに出させられる”くらいしかなかったんだから! ほんとに!」
「おい!」
バズクローは勢いよく彼女へ向き直った。
「それの何が悪い?」
そう問い返す声は、少々むきになりすぎていたかもしれない。

「私はプレダコンだよ、バズ。レイザークロー、メガトロン、リージ・マキシモまで遡る戦士の系譜にいるんだ」
サーケットは牙を剥き、鉤爪を大きく広げてみせた。

「この爪を見て!私は戦うためにいる。征服するためにいる。こんな時代遅れのエネルゴン食らいどものために、お遊戯みたいなゲームをするためじゃない!」

「私のオルトモードは、行ったこともない世界で戦うために作られてる。しかも、ライオコンボイみたいな連中を手伝って、この場所を変えない限り、私はその世界を見ることもない」

まだ見ぬ世界で戦うために作られてる。でも、私はその世界を一度も見たことがない。
そして、ライオコンボイみたいな連中を手伝って、この場所を変えない限り――私はその世界を見ることもできないの!」

バズクローは言葉を失った。
サーケットに、こんな激しさがあるとは一度も思わなかった。
これもライオコンボイと会ったせいなのだろうか。
「そんなに強く思ってたなんて、知らなかった」
「そりゃ知らないよ! 誰も知らない!」
彼女は吐き捨てる。

「地上じゃこんなふうに自由に話せない。奴らはどこにでもいる。景色の一部みたいに組み込まれて、何にでも配線されて、ずっと見て、ずっと聞いてる。でもここは違う。私にもできる権利があるなら、地上だって、いつかはそうなるわ」

バズクローは、浄化フィルターを長時間最大出力で回し続けた副作用を感じ始めていた。
視界がぐらぐらと揺れ、音声受容器にはフィードバックによる雑音が鳴り響いている。
自分の気持ちを言葉にしようとするが、出てきたのはせいぜい――
「……それ、たしかに筋は通ってるな」
「当然でしょ。これは何かとんでもなく大きなことの始まりだよ、バズ。私は、本気であんたにもこっちにいてほしい」
「ほかに、どこへ行くっていうんだ?」
そう答えてから、バズクローは自分でも、その答えがわからないことに気づいた。

辺りを見回す。

戦争に向けた準備が、着々と進められていた。

そこに集う数百ものボットたち。

そのフェイスプレートに浮かぶ表情は、衝撃に打ちのめされたものから、厳しい決意を固めたもの、さらには革命への熱狂に燃えるものまで、実にさまざまだった。

そんな光景を目の当たりにしながら、バズクローはひそかに思った。
――ここ以外なら、どこだっていい。

おそらく、それが本当の答えなのだろう。


■p11~13
「これが、君たちの標的だ」
ライオコンボイが、魔法の杖のようなスタッフでひび割れた壁へ青緑色の設計図を投影した。
映っているのは、ずんぐりとした頑丈そうなロボット。脚部は胴体よりも幅広く、全身には火器とセンサーノードが所狭しと備え付けられている。
そのシルエットの両脇には、左右三つずつ、計六つの赤い点が並んでいた。
左下の点だけが、青い円で囲まれている。
それは、今となってはとうに忘れ去られた、古代の何らかのコードの一部らしかった。
バズクローには、その設計に見覚えがあった。
マクシマルやプレダコンよりも、はるかにビルダーに近い造形だ。
今となっては古代の技術といえる代物だったが、それでもなお、恐るべき殺傷能力を備えていることは明らかだった。

バズクローは緊張して唾を呑み込む。
「名は、フォートレスマキシマス」

バズクローは部屋を見回し、五人の仲間たちへ目を向けた。
誰かが言うべきことを言うのを待ったが、誰も口を開かない。
「……それ、ビルダーだろ」

「その通り」
ライオコンボイは穏やかなまま、視線だけに温かみを乗せた。

「しかも、非常に重要な地位にあるビルダーだ」

「ビルダーはでかい! しかもこいつ、刑務所に入ってるんだろ? もう牢屋にいるビルダーを、なんでわざわざ狙うんだ?」

ライオコンボイは親切そうに彼を見る。
「どうやら、私の説明が不十分だったようだ、友よ。フォートレスマキシマスは“刑務所に収監されている”のではない」
一拍置く。
「――フォートレスマキシマスそのものが、刑務所なんだ」

「この図面は、正確な縮尺ではない」
彼がスタッフを振ると、投影されていた図面が縮小され、街の建造物群を一望できる地図へと変わった。
そこには、いくつもの高層建築に囲まれてそびえ立つフォートレスマキシマスの姿があり、周囲の建物は、どれも彼の膝にすら届いていなかった。

「フォートレスマキシマスには、政治的に……都合が悪いと判断された者たちが収容されている」
ライオコンボイは続ける。

「だからこそ、この作戦は重要だ。レジスタンスへの民衆の支持が高まりつつあることは、皆も知っているだろう。それ自体は望ましい。だが、十分な力量を備えた指導者がいなければ、彼らのような……熱意に溢れた素人たちは、いずれ必ず訪れる弾圧の前に打ち負かされてしまう。」

「そんなことは、決して許してはならない。それでは、我々が戦っている理由そのものを裏切ることになる。」

「戦士が必要だ。彼らを率いる計画者が必要だ。そして幸いなことに、フォートレスマキシマスには、その両方が都合よく一か所に集められている」

バズクローは、気を失うか、潤滑油を漏らすか、どちらかになりそうだった。
どちらの方が恥ずかしいか考えていると、一団の前で、大柄なマキシマル、ビッグホーンが立ち上がった。
「楽勝だな」

レジスタンスの指導者は、少し甘やかすように頷いた。
「ありがとう、ビッグホーン。では作戦指揮官へ引き継ごう……サイバーシャーク?」

サイバーシャークが前へ出る。
バーで見せていた気楽な歯だらけの笑顔は消えていた。
「全員、俺が直接選んだ。勧誘したのも俺だ。お前たちは最高の人材だ。」

「今回の作戦は、六人だけで行く。これ以上人数を増やせば、誰にも気づかれずに内部へ潜入できる可能性が低くなりすぎると判断されたためだ。」

「本来なら私から皆を紹介するところだが、数時間後には、砲火の中で互いの背中を守り合う仲になる。自己紹介くらいは、自分たちで済ませてもらおうと思う」

最初に口を開いたのは、ビッグホーンだった。
「俺のことは、ほとんどの奴が知ってるだろ。ビッグホーン。爆破と重火器担当だ」

続いてサーケットが、少し緊張した様子で立ち上がった。
「えっと、サーケット。手……じゃなくて鉤爪か。まあ、とにかく近接戦闘専門。そんな感じ」

重装甲ががちゃりと鳴り、四角い体型のマキシマルが立ち上がる。
「サバイブだ。今回の作戦計画を立案した。計画どおりに事が運ぶよう、俺自身も同行する」

次に立ち上がったのは、すらりとしなやかな体躯を持つマクシマルだった。
その顔には、嘲るような薄笑いが浮かんでいる。

「俺はコラーダ。大抵のことは、ひととおりできる。だが、一人で動くのが一番性に合ってるんでな。誰も俺の邪魔をするんじゃねえぞ」

――嫌な奴だな。

バズクローがそう考えているうちに、いつの間にか自分の番が回ってきていた。
「バズクロー。ゲームのチャンピオン」
そこで言葉を切った。
だが、どうやら皆は、その続きを待っているらしい。

「それと……まあ、飛べる、かな」

驚いたことに、それで十分だったようだ。

ビッグホーンが納得したように頷く。
「なるほどな。そりゃ道理だ」

他の全員もそれで満足したらしい。

サーケットがバズクローの背中をぱんと叩いた。
不意を突かれたバズクローは、びくりと小さく身体を震わせた。

「やるじゃん。これ、本当に大事なことなんだよ。あんたのこと、見誤ってた。良かった」
バズクローは、ただ呆然と頷いた。

サーケットはもう興奮気味に、新しい戦友たちの作戦会議へ混ざっていった。


■p13~14
フォートレスマキシマスは、ターンの大地を、周囲何メガマイルにもわたって見下ろすようにそびえ立っている。
かつて、この巨大なオートボットは、俗に「都市」と呼ばれる変形形態を備えた、ごく少数の存在のひとりだった。
数百体ものボットが暮らせる居住区と、数千の敵を食い止められる火力を備えた、完全自給自足型の戦闘要塞。

だが、そこには途方もなく皮肉な結末が待っていた。
やがてエネルゴンが枯渇し、フォートレスマキシマスの巨大な機体を動かすことができなくなった時、彼はその場で動きを止めるしかなかった。
巨大な変形コグを、最後にもう一度回転させるだけの力さえ残されていなかったのだ。

そのままのロボットモードで凍りついた。

その巨体はなお、軍隊を収容するに足る大きさを誇っている。
だが、かつて彼に「フォートレス」の名を与えた、あの要塞形態へと変形することは、もはや叶わなかった。

サイバーシャークは一行を輸送車両から降ろすと、身を低く保ち、物音を立てぬよう注意しながら先導した。

彼は時折、腰に磁力で固定された小さな銀色の容器を確認していた。
以前、サーケットがその中身について尋ねた時、サバイブはただ一言、
「知る必要はない」と、唸るように答えただけだった。

指示どおり、レジスタンスのメンバーは全員、感覚器官の反応やIFF識別信号を、可能な限り目立たないよう抑えている。

ターンはディセプティコンの都市。
住民のほぼすべてがビルダーで占められている。
ひとたび銃撃戦が始まれば、民衆からの支援などは期待できない土地だった。

バズクローが安堵したことに、通りには人影ひとつ見当たらなかった。
時折、金属質の足音が聞こえてくるたびに、彼はびくりと身を震わせたが、それはエンプティたちが、よろよろと歩き回りながら用事を済ませている、聞き慣れた音にすぎなかった。
ただ、辺りがあまりにも静まり返っているせいで、そんな音さえ不気味に響くのだ。

バズクローは、背中に重くのしかかる予備の燃料タンクの位置を直した。
重い。
こちらのエネルギーは、十分に充填されている。

一方、これから相手にする敵は、エネルゴン不足のために変形することすらままならない連中だ。

「みんな、機能停止してるのかも」
サーケットが希望的に囁く。
バズクローも同じことを考えていた。

だが、サイバーシャークは首を横に振ると、無言で上を指し示した。
街の尖塔やミナレットには、何十体ものビルダーが、まるで配線の一部であるかのように組み込まれていた。

彼らはそこから動くこともなく、硬化しきった身体を、建造物の表面に醜く膨れ上がらせている。

バズクローも、ほかのプレダコンたちと同じように、ビルダーが朽ち果てた自らの領地を見下ろしている姿なら、これまでにも何度か目にしたことがあった。

だが、これは違う。

これは――癌だ。

もっと小さくなれと自分に命じ、他の仲間とともに影へ身を沈める。
ついに、一行は所定の位置へと到着した。

バズクローはしばらく空を探し、やがて、ライオコンボイの輸送機が音もなく浮かんでいるのを見つけた。
その黒い機影は、まさに予定された位置に、ぴたりと留まっていた。

サイバーシャークが指を折って数え始める。

一、二……。

そして、握りしめた拳を、ハンマーのように勢いよく振り下ろした。

その瞬間、輸送機の砲門が一斉にフォートレスマキシマス方面へ火を噴いた。
バズクローのセンサー群が、たちまち異常な反応を示した。
味方のIFF識別信号が、まるで灯台のように次々と明るく輝き始めたのだ。
放たれた砲弾の半分は高性能炸薬弾、残る半分は焼夷弾だった。

いずれも、可能な限り派手に目立ち、敵の注意を引くための攻撃だった。
数秒もしないうちに、フォートレスマキシマスの巨大な足元を取り囲む建物群から、色鮮やかなブラスターの光が噴き出し始めた。
エネルギー兵器が次々と輸送機へ向けられる。
墓場の亡者を思わせるタルンの住民たちが、パイプラインや導管から緊急用のエネルゴン配給を引き出し、行動を開始したのだ。
周辺に配置されていたマイクロマスターの哨戒部隊も、続々と集結し始めていた。
サイバーシャークが身振りで“行くぞ”という合図を送った。

一行は、慎重に選び抜かれた裏路地を通り、彼の後を急いだ。
進路を折り返し、フォートレスマキシマスの方角へと向かっていく。

だが、バズクローだけはその場に足を止めていた。

どうしても、目を離すことができなかったのだ。

ライオコンボイの輸送機が、エンジンに致命的な一撃を受ける。

機体がきりもみ状態に陥ろうとした、その瞬間。
最高司令官自らが、損傷した輸送機から飛び出した。

背後に浮かぶルナ・ツーを背に、その力強い巨躯が黒々と浮かび上がる。

手には、今にも一撃を放たんと構えられた杖。

ライオコンボイは、雷霆のごとく大地へと降り立った。

着地するや否や、左右へと容赦なく攻撃を繰り出し、不運にもその場に居合わせたターン防衛軍の隊員たちを次々となぎ倒していく。

すでに彼の周囲には、ほかの仲間たちも集まっていた。
彼らは互いの背中を巧みに守り合いながら、次々と敵を打ち倒していく。

そこでようやく、バズクローは自分が仲間たちから大きく遅れてしまっていることに気づいた。

彼は慌てて駆け出した。

そのすぐ脇を、流れ弾のフォトン弾がかすめていく。
轟音とともに、路地の壁が大きく抉り取られた。
バズクローは、間一髪でその直撃を免れたのだった。


■p14~15
スクイーズプレイは、ターンの夜の静寂を楽しんでいた。

昼間には、ディセプティコンのマイクロマスターたちがせわしなく行き交い、騒がしくて仕方がない。

だが今は、そんな喧騒に気を取られることもなく、彼はお気に入りの娯楽に、より多くの処理能力を割くことができた。

それは、珍しい異星のメカニマル同士を無理やり戦わせる、その様子を収めた映像を眺めることだった。

遠い昔、まだ自由に動き回ることができ、監視任務に縛りつけられてもいなかった頃。
彼はそうした戦いを自ら観戦しに出向き、その勝敗に大金を賭けたものだった。

今となっては、どの映像も遥か昔の記録ばかりで、そこから金を稼ぐこともできない。

それでもなお、彼はそれらを楽しんでいた。

映像が呼び覚ます、血への渇望と郷愁。

その二つが入り混じった感覚を、今も味わうことができたからだ。

なぜか《ゲーム》でさえ、獣たちが繰り広げる駆け引きに比べれば色褪せて見えた。
だからこそ、都市の各区画から緊急信号が次々と届いていることに気づいた時、彼は少なからず動揺した。

正体不明の輸送機がターン上空へ現れ、発砲を開始したという。
マキシマルやプレダコンのスラムや掘っ立て地区を荒らしていた騒乱が、ついにかつて栄華を誇ったこの都市へも来たのだ。
スクイーズプレイは、ペトロラビットが変形途中のターボフォックスの首根っこへ噛みついた場面で映像を止めると、ネットワーク中へ情報要求と脅迫を交互に送りつける。

返ってくるのは混乱した報告とノイズばかりだった。
恐怖が膨らむ。

自分の担当区域への支配が、指の間からこぼれるように失われていく。
センサーノードが恐ろしい勢いで次々と消えていく。
そのひとつが失われるたびに、まるで自分の脳の一部をむしり取られるようだった。
ああ、今すぐこの止まり木を離れ、敵と間近で戦えたなら。
だが、そんな時代はとうに終わった。
錆びついて閉じた鉤爪一本動かせない。
まして戦場へ突撃するなど。

やがて、パニックに陥った部下たちからの報告が、次々と飛び込んできた。
クランプルゾーンとグロウルの部隊が、敵と交戦を開始したという。

スタッフを持つボットと、マキシマルの集団について、何やら報告されている。
スクイーズプレイには、何が起きているのかさっぱり理解できない。

ただ、自分の部下がまとめて、しかも惨たらしく死んでいることだけは明らかだった。

無能どもめ。

次の数秒以内に戦場のまともな戦術情報を出せなければ処罰すると、怒鳴り散らす。
前線から送られてくる支離滅裂な映像に気を取られるあまり、彼は運命を決するその通信を、手遅れになるまで聞き逃していた。

『輸送機、墜落する! グリッド・プラヴァス、退避しろ!』
その座標の意味を理解したのは、墜落する輸送機が、彼の直結された塔へ激突するほんの数ナノクリック前だった。
スクイーズプレイは恐怖に凍りつく。
非効率極まりない自分の設計のせいで、身動き取ることも許されない。
電力グリッドがショートし、炎が建物を舐め始める。

スクイーズプレイは建物内部の監視カメラを起動すると
恐怖に駆られながら、その光景を見つめ続けた。
墜落した機体の下に溜まった燃料が、ゆっくりと広がっていく。

火花を散らし、ぱちぱちと音を立てながら、この百年間、彼の住処であり続けた建物を焼き尽くそうとしている炎へ向かって、燃料が刻一刻と近づいていく。

プリマスを呪う。

ピットを呪う。

自分を呪う。

かつての相棒を呪う。

その間にも、淡い桃色に輝く燃料の池は、激しく踊り狂う炎へと、じりじり近づいていった。
やがて彼は、哲学的な思索に耽る余裕すら取り戻した。
どうせ、自分の世界は既にスクラップになってしまったのだ。
少なくとも、知性ある存在のスパークが消える瞬間を、もう一度、リアルタイムで目にする機会には恵まれた。それが自分自身のスパークであることなど、今となっては大した問題ではなかった。

自らの最期が避けられないことは、もはや明白だった。ならば、その一瞬一瞬を余さず楽しんでやろう。センサーが砕け、繊維が引き裂かれる、そのすべての瞬間を。
あらゆる死は美しい。
ならば、自分自身の死こそ、きっとこれまでで最も壮麗なものになる。
少なくとも、自分にはそれだけの最期が与えられて然るべきだ。

スクイーズプレイは、すべてのカメラとセンサーを、墜落機と動くことのできない自らの身体へと向ける。
あらゆる角度から。
サイバトロニアンが持ち得る、ありとあらゆる感覚を駆使して、自分自身の死を味わい尽くすために。

あと数ナノクリック。
――どうか、長く、苦痛に満ちた死でありますように。

だが、彼はその願いを後悔することになっただろう。

爆発が、朽ち果てたその身体を呑み込んだ時。

彼の死は、一瞬だったのだから。


■p15~18
バズクローがようやく追いついた時、サイバーシャークは巨大なオートボットの脚を構成する――青い絶壁のような外装――を背にして、仲間たちへ静かに、しかし切迫した様子で状況を説明しているところだった。
「……どうやら、交戦の前提が変わったようだ」
彼はそう話していた。

「ライオコンボイは、奴らが追い詰められれば、緊急用のエネルゴン備蓄にまで手をつけるかもしれないと考えていたが、どうやらそのとおりになったらしい。
当初は、こちらが一方的に攻撃を仕掛ける展開を想定していたが、この状態ではそうなるとは限らない。各自、十分に注意してくれ」

「心配いらねえよ」
ビッグホーンはロケットランチャーを担ぎ直しながら言った。

「皆、登る準備はできてるか?」
「もちろん! 心配しないで、先頭は私でしょ」
サーケットは両手両足の磁力パッドを作動させると、壁に向かって跳躍した。
そして、その四肢が動く限りの速さで、たちまち壁をよじ登り始める。
「いいぞ、その調子だ」
サバイブが言う。
「忘れるなよ、バズクロー。お前は後方警戒だ。俺たちが登っている間は、その下をホバリングしながら、動くものがあれば片っ端から撃て。
運がよければ、俺たちはそのまま頂上まで登りきれる。そうしたら、お前は最後に飛んで合流しろ。誰にも気づかれずにな。
それと、スクラップにかけて、通信は絶対に切らすな。連携が取れなければ、俺たちは死ぬ。わかったな?」

「了解、ボスボット」
バズクローは変形した。
地上から数メートルの高さにホバリングしながら、システム診断を実行する。
輸送機に乗り込んで以来、もう五十回ほど繰り返している診断だった。
すべて正常。
それどころか、予備のエネルゴンは、ここ何周期もの間で最も潤沢な状態にあった。
燃料ポンプにも、珍しくエンゲックスは一滴も残っていない。
武装のエネルギーも、完全に充填されていた。
本来なら、気分が高揚してもおかしくない状態だ。

だが、何もかもがおかしく感じられた。

あのゲームで勝って以来、一度も実戦に出たことはない。
こんなのは、自分じゃない。
これは、どこか別の誰かだ。
ライオコンボイのような英雄か、あるいは、哀れなほど理想に目が眩んでいるサーケットみたいな誰か。

自分は、そんなボットではないはずなのに。

――どうして俺は、こんなことをしているんだ?

降下地点の周辺では、無数の爆発が続いていた。
その様子から、ビルダー部隊は他のことで手一杯だろうと判断し、バズクローは危険を承知で、レーダーパルスの探査範囲を作戦規定よりも少しだけ伸ばしてみる。
チームはすでに巨大ロボットの半分ほどまで登っている。進行は順調だった。
フォートレスマキシマスの外装には、その巨体の整備を容易にするため、整備用の足場や手掛かりが随所に設けられていたのだ。

バズクローも、仲間たちの進行に合わせて高度を上げることにした。
だが、それは周囲の建物に守られた比較的安全な空間から、身を晒すことを意味していた。
そして、たちまち状況は悪化した。

近接センサーが警告音を鳴らす。
灰色の双ローター式ヘリコプターが、ライオコンボイとの戦闘から離脱し、こちらへ突っ込んでくる。

ブラスターの光が周囲を飛び交う。
バズクローは回避行動に移りながら、鉤爪に備えられたランチャーのひとつから、フラック弾を収めたキャニスターを発射した。
その時、内部マップに赤い点が現れた。

今度は緑のマイクロマスターが最初の機体へ合流し、上空から急降下する態勢に入る。
「助けが必要そうだな、バルジ?」
「来るのがお前だと知ってたら、ウィンドシアー、こんな身の程知らずくらい俺一人で片づけたんだがな」

バズクローはもうパニック寸前だった。
サーケットの個人用通信へ、悲鳴のような救難信号を送る。
だが恐ろしいことに、登攀チームもまた交戦状態に陥っていた。
フォートレスマキシマスの側面に、いくつもの開口部が現れていたのだ。
そこからマイクロマスターの警備兵たちが、登っている仲間たちへ向けて、立て続けに銃撃を浴びせている。
彼らは釘付けにされ、身動きが取れなくなっていた。

バズクローは必死に、似た状況をゲームで見たことがないか考える。
敵の飛行要員は二対一。
だが射撃はうまくない。
ライオコンボイによる誰にも止められそうにない猛攻によって、連中も動揺しているのだ。
それに、フラック弾のキャニスターはまだひとつ残っている。
もしかしたら――

第二案が心の底から欲しいと願いながら、バズクローはスラスターを全開にする。

狙うは、先頭に出たばかりの新手。
その敵へ向かって、一直線に突っ込んでいく。
二筋のブラスター光が、ほんの一秒前まで彼のいた場所へと殺到した。

砲撃はフォートレスマキシマスの装甲板に命中し、溶けた金属の粒を辺りへ飛び散らせた。

――一。
――二。
三を数える頃には、敵とほぼ同じ高度にまで迫っていた。

バズクローは発砲した。

フラック弾のキャニスターが回転しながらウインドシアーへと飛んでいき、ほとんどその操縦席の目の前で炸裂した。

突撃によって距離を詰めた結果、ウインドシアーのキャノピーとバズクロー自身の間には、わずか一メカノメートルの何分の一かほどしか距離がなかった。
だが、両者には決定的な違いがあった。
バズクローは、爆発が起こることを知っていたのだ。
敵の飛行兵たちには、そんな予告などなかった。

バズクローは爆発の寸前に変形し、地面へ向かって真っ逆さまに落下していた。
一方、敵の二機はまだ空中に留まっていた。
その中央でフラックが爆発した。

ローターに煙を上げる穴が開き、二機は別々の方向へ弾き飛ばされる。
腐食性の吐瀉液がこみ上げるのを必死に堪えながら、バズクローは飛行モードへの再変形へ集中する。
地面まであと数秒。
今まで出したこともない速度で手足を再配置し、飛行系統へ出せる限りの電力を送り込む。

急上昇。
ようやく仲間たちのもとへ猛然と飛び戻った。

そこでサバイブの指示を思い出した。
「飛行兵二機を撃破した」
自分でも少し誇らしげな声だった。
バズクローは必死に作戦上の通信手順を守ろうと、周囲へセンサーを巡らせた。
「それから、地上部隊が接近している。方角は、ええと……」
方位を確認する。
「西から来てる、と思う」
激しいノイズにかき乱されながらも、がっしりとしたマクシマルの声が、かろうじて通信に届いた。
『何とかできるか? こっちは激しい交戦状態だ!』

――それは、そっちにとってまずいな。

勝手に頭へ言葉が浮かんだ。
「わからない、サバイブ。こっちもかなり無防備な状態なんだ」
ホバリングしながら、先ほどのフラックの破片がかすめた無数の傷に痛みを感じる。
どうするべきか、まだ決めかねていたその時、再び通信機が唸った。

『スクラップめ! 俺がやる!』
バズクローは恐怖に目を見開いた。
フォートレスマキシマスの外装から、細長く複雑に曲がった姿が剥がれるように離れ、地上へ飛び降りた。
そして、突進してくるビルダーたちとの戦闘が始まると、激しく飛び交うエネルギー光の中へと姿を消した。

『コラーダ、駄目!』
サーケットの声は完全にパニックだった。
『何やってるの!?』

『ファンベルトの結び目でもほどいてろ! こういうのは俺の仕事なんだよ!』

張り詰めた数秒が過ぎた。
そして――。

『……多いぞ。バズクロー、ふざけんな! “一部隊”だと? 旅団規模じゃねえか、これじゃ! なんでお前……!』

激しい雑音が弾けた。

そして、通信は途絶える。

『コラーダ! コラーダ、応答しろ!』

ノイズを切り裂くように、サイバーシャークの声が響いた。
『くそっ! 通信が切れた! バズクロー、こっちへ来い! 今すぐお前の力が必要だ!』

――言われたとおりにしたほうがいい。
――もっといい考えがあるなら、別だが。

またしても、勝手な思考。
戦闘のせいで神経質になっているだけだ。

バズクローはそう考えた。

彼は羽音を響かせながら、仲間たちのもとへ飛んでいった。
鉤爪のランチャーを格納し、より実戦向きのブラスター形態へと武装を切り替える。
さらに、HUD上の表示から照準データ以外の情報をすべて取り除いた。

そのおかげで、マイクロマスターたちが側面を突かれたことに気づくより早く、二体を狙撃することができた。

残りの敵がこちらへ向き直り、発砲してくる。
バズクローは不規則な軌道を描きながら、その攻撃をかわした。

もっとも、それが的確な判断によるものだったのか、単なる幸運だったのかは怪しいところだったが、それこそが今、仲間たちに必要な援護だったのだ。

サーケットは両手の磁力パッドを解除すると、身体を横へと傾け、そのまま地面に対して九十度の角度で走り始めた。

バランスを取るため、肩に備えられた車輪がせり出す。
警備兵の一体が彼女に気づき、タイヤをひとつ撃ち抜いたが、幸いにも致命的な損傷には至らなかった。

サーケットは、最初の二つのハッチへ、エネルゴン爆薬を放り込んだ。
警備兵たちは反射的に内部へと身を引き、時限爆弾を探し始める。
その背後で、ポータルが閉じる。

くぐもった爆発音が響いた。
続いて、濃い煙が立ち込める。
警備兵たちが爆弾の処理に失敗したことは、明らかだった。

三つ目のハッチでは、武器を使う必要すらなかった。
サーケットは鉤爪を限界まで伸ばし、牙を剥き出しにした。
そして、不運な黒と紫のマイクロマスターの両脇に爪を引っ掛けると、その身体をそのまま宙へ投げ捨てた。
飛行モードを持たないのだろう。
マイクロマスターは、あらゆる周波数に絶叫を響かせながら、地面へ向かって真っ逆さまに落ちていく。

サーケットはハッチを開けたままにしようと踏ん張ったが、扉は勢いよく閉じてしまった。内部にいた者がいなくなると、自動的に密閉される仕組みらしい。
砲火は止んだが、登攀はようやく半分を少し越えたところだった。

一行は、それでもひたすら上を目指した。
眼下では、燃え盛る炎が街を照らしている。ターンのビルダーたちのガーゴイルを思わせる異形の影は、ナノクリックごとに小さく、遠くなっていく。
バズクローは近くをホバリングしながら、できる限り状況を報告し続ける。
仲間たちは一歩一歩、腕で体を引き上げていった。
やがて、それほど時間もかからず、一行は肩の高さにまで到達した。

バズクローは、フォートレスマキシマスと同等か、それ以上の巨体を持つ相手と戦うために作られた巨大砲のそばを飛んでいた。
こんなものが設計されたことさえ信じ難い。
まして実際に撃たれたことがあるなど。
一発にこれほどの燃料を使えるサイバトロンなど、自分が知る故郷ではなかった。

仲間たちが胸壁のような凹凸に囲まれた頂上へ辿り着くと、バズクローも変形し、その傍らへ着地した。
彼らの眼前には、巨大なフェイスプレートがそびえていた。
現代のビルダーを三体、いや四体積み重ねても、なお届くかどうかという高さ。
その顔には、厳めしい表情が刻まれている。幾世紀ものあいだ、ただの一度も変わることのなかった表情が。

バズクローは、尋ねることさえ恐ろしかった。
「……コラーダは?」
ビッグホーンが眉をひそめる。
「いねえ。あいつでも、さすがに食い切れない量を噛んだんだろ」

サーケットが、そっとバズクローの鉤爪に触れる。
「あんたのせいじゃないよ、バズ」
「わかってる。俺は敵が来るって警告した。何体いるかまでは見えなかったんだ! だいたい、あんなふうに考えなしで飛び出していくなんて、いつものことなんだろ」

ビッグホーンが鼻を鳴らす。
「他に誰のせいだっていうんだ。間違った情報を渡されたら、どうすりゃいい? 当てろってのか?」

サーケットが二人の間へ割って入る。
「言い過ぎだよ……」

巨体のマクシマルは、彼女に正面から向き直った。
「どいてろ、プレダコン。俺はこっちの“バズ”と少し話がある」

その威嚇めいたやり取りを、サイバーシャークの厳しい声が断ち切った。
「ビッグホーン!」

彼は叱責するように名を呼び、腰に下げた金属製の筒へ手を触れた。
「任務を忘れるな」

ビッグホーンは不満げにぶつぶつと呟きながら、後ろへ下がった。
サイバーシャークは、それ以上時間を無駄にしなかった。

「仲間が一人減った。しかも、状況はこれからますます厳しくなる。内部には、さっきの連中がまだ数百体いるかもしれない。収容区画まではまだかなり下だ。全員、燃料を満タンにしておけ。今の時点でこちらにある唯一の優位は、エネルギー効率のよさだけだ」

バズクローは頭の中へ“最悪”という言葉が滑り込むのを感じた。
彼は背負ってきた燃料タンクの中身を吸い上げながら、ぼそりと呟いた。
「……ずいぶん前向きな言い方だな」

「何か言ったか?」
ビッグホーンが低く唸る。

「俺が? まさか」
バズクローは憤慨したように答えた。
「誰がこんな場所に居たくないって? いるわけないだろう」
「……だろうな」
それ以上の言い争いは、もはや不可能だった。
セルケットが興奮した声を上げ、飛行部隊の接近を知らせたのだ。

「合図だ」
サイバーシャークが言った。

「ビッグホーン」
「喜んで」
ビッグホーンはロケットランチャーを持ち上げ、フォートレスマキシマスの巨大で動かない光学アレイ、そのレンズへ照準を合わせる。

砲撃が、その眼を粉々に打ち砕いた。
ガラスの破片と照準回路の残骸が、巨大な噴煙とともに宙へ舞い上がる。

煙が晴れるのを待たず、サイバーシャークは巨大な眼窩の縁を掴み、その暗い開口部へと身を躍らせた。
次にサバイブ。
続いてセルケットが飛び込んでいく。
残ったバズクローとビッグホーンは、接近してくるオーニソプターの一団へ牽制射撃を浴びせる。

「入れ!」
ビッグホーンが吠える。
彼はロケットランチャーをフルオート射撃に切り替えると、空一面に砲火を浴びせた。
「ええと……」
バズクローはぽっかり開いた眼窩を見る。
苛立たしいことに、センサーは内部をまったく読み取れない。

「早くしろ!」
巨体のマクシマルは、片手で射撃を続けながら叫んだ。そして、もう片方の手でバズクローの首根っこを掴むと、そのまま開口部へと放り投げる。
数秒後、ビッグホーン自身もその後に続いた。
敵飛行兵の執拗な機銃掃射が、その直後を薙いでいった。


■p19
巨大構造体のさらに奥深く。
色だけが異なる、三つの同一形状の存在が横たわっていた。
彼らは手厚く保護された状態で、互いに百二十度の角度を成すよう配置されている。
足は外側。頭は中央へ寄せられている。

金属の唇からは、それぞれ細々と、もはや形ばかりとなった意味不明の呟きが漏れ出していた

赤――分析。
冷徹な理性そのもの。
すべてを見通し、すべてを分析し、すべてを記憶する。

青――後脳。
燃料ポンプ、電力バランス、油圧レベル、コンデンサー充電。
そして山ほどの大きさを持つ生きた構造体を存続させるために必要な、幾万もの細かな情報の流れの中を漂っていた。

緑――感情、直感、言語。

爆発が眼部を揺るがした時、三つの意識が、それぞれ反応した。
「右舷光学部、破損。対応部隊、警戒態勢へ」
理性脳が、誰もいない室内へ明瞭な声で指示する。
運用意識は修復命令を呟き、損傷回路を迂回するようエネルギー経路を組み替える。

三番目の精神だけは、しばし沈黙していた。
やがて、長いあいだ忘れ去られていた記憶バンクの奥底から、言葉が掘り起こされた。
それは嘆きだった。
すすり泣きだった。
痛みに満ちた弔辞だった。
「血に濁る潮が解き放たれ――至るところで、無垢の儀式が溺れてゆく」


■p20~25
内部の暗さに光学センサーが慣れるまで、数秒を要した。
そこは天井こそ低かったものの、かなり広々とした空間だった。辺りは鈍い赤色の光に照らされている。
仲間たちは手慣れた動きで、それぞれの方向へ散開していた。
バズクローも適当に一方向を選び、武器を向ける。

動くものの気配は、どこにもなかった。
ここでも作戦手順上、周囲の確認は目視だけに限られていた。
敵の警備兵に自分たちの識別信号を正確に捕捉されれば、フォートレスマキシマスの隔壁を閉鎖され、内部に閉じ込められてしまうかもしれない――場合によっては永遠に――とサイバーシャークは懸念していた。
考えただけで身震いする。
地上での激戦の直後だけに、この静寂は不気味だった。

「……何か見えるか?」
バズクローが囁く。
「何もない」
サバイブが答えた。
「他ははどうだ?」

「こっちだと思う」
サーケットが言う。
サイバーシャークは地図を確認した。

「確認した。行くぞ」

一行は一列になって進み始めた。
先頭はサイバーシャーク。最後尾をビッグホーンが務める。
バズクローは、何かが動く音を聞き逃すまいと音声受容器を広げ、意識を集中させていた。

「本当にビルダーの中にいるんだ……」
サーケットが畏敬の念を込めて呟いた。

――厳密には違う。

バズクローは弾かれたように振り返った。
「誰だ?」

「何が?」
ビッグホーンが本気で困惑する。
その間にもサイバーシャークは、腰から光沢のあるキャニスターを取り外し、何やら設定を調整していた。

「……いや、何でもない。たぶん」
サーケットは不思議そうに彼を見つめたが、一行は再び無言で歩き始めた。

やがて通路が開け、また別の巨大な空間へと出た。
そこには、サイバー外科医なら誰でも見覚えがあるだろう機械類が、所狭しと並んでいた。
ただし、何もかも桁違いに大きい。
ポンプ。
導管。
油圧ピストン。
どれも、想像を絶するほどの大きさをしている。

――俺の身体の中も、こんなふうになっているのか。

そう思い、バズクローはぞっとした。

――怖がることはない。

「……何だって?」

――誰の身体にもあるものだ。

バズクローは慌てて左右を見回した。
「おい、本当に誰が喋ってるんだ!?」

「俺じゃないぞ」
サバイブが気さくに答えた。

「どうしたの、バズ?」
サーケットは心から心配そうな眼差しを向けていた。

「……何でもない。さっさと先へ進もう」

最初の襲撃が起きたのは、二階層ほど下ったところだった。
完全に気づかれず進めているのかもしれない――そう思い始めた矢先、偽装隔壁の向こうから、三体のマイクロマスターが魔法のように現れた。
どいつも、バズクローの腿より太い一体型武器を身体に組み込んでいる。
バズクローは感情サブルーチンを必死に抑えながら、弾幕から遮蔽物へ飛び込んだ。

真っ先に交戦したのは、サバイブだった。
戦闘中も、平時と変わらぬ冷静さを保っている。
彼はまず、肩に巨大な砲を備えた黄緑色のビルダーを制圧射撃で釘付けにした。
そして、両腕が砲そのものになっている黄色い敵へと肉薄し、至近距離から無数の弾丸を叩き込んだ。

その間、サイバーシャークは援護射撃を続けていた。
彼の砲撃が、残る一体のマイクロマスターの足を吹き飛ばす。

そいつは褐色の単眼のボットで、足には二つの車輪が備わり、右腕の代わりにミサイルランチャーが取り付けられていた。

釘付けにされていたメカノイドが、サバイブの射撃からどうにか抜け出した。
そして、仲間たちの無残な姿を目にし、恐怖に顔を引きつらせる。

「ボム……ショック……」

彼はサイバーシャークへと向き直り、巨大な武器を構えた。

だが、その動きが止まった。

顔には、何が起きたのかわからないといった表情が浮かんでいる。
その口から、エネルゴンと油圧液が流れ出し始めた。
胸部からサーケットの鉤爪が突き出し、そのまま体を引き裂いた。

そこへ、新たに三体のマイクロマスターが角を曲がって現れた。
先ほど倒された連中と同じ型のボディを持ち、同じようなディセプティコンのエンブレムを身につけている。

――よく見ろ。

「……は?」

――よく見てみろ。あいつらにお前は必要ない。

「そんなことない」
そう答えたものの、バズクロー自身、確信がなかった。
「俺を選んだんだ」

「ごちゃごちゃ喋ってないで、手伝え!」
ビッグホーンが怒鳴る。
彼は、茶色とオレンジ色をした単眼のビルダーと組み合っているところだった。

バズクローは、戦闘が始まってから自分が一歩も動いていなかったことに気づいた。
身体が、ひどく震えていた。
それでも、どうにか意識を奮い立たせ、セルケットへ向かって突進してくる緑色の戦車に発砲する。
決して、いい射撃ではなかった。
砲弾は二基あるミサイルランチャーの片方を、かすめただけだった。

それでもサーケットが立て直すには十分だった。
彼女は戦車の内部へ牙を深く突き立てる。そのキャタピラが、動きを止めた。

「進み続けろ!」
サイバーシャークが叫ぶ。
彼は黄色い六輪戦車へ向かって猛然と突進しながら、敵が放つ強力な収束プラズマ砲をかわしていた。
「撃ち続けるんだ!」
「巨大なエネルゴン反応を検知した!」
サバイブが警告する。
「ここ、思ってたほど死んじゃいないぞ!」

その言葉を裏づけるかのように、バズクローの足元で通路が動き始めた。
変形するだけの空間はない。足場の動きに必死についていくしかなかった。

床板が次々と配置を変えていく。
壁から巨大な歯車がせり出し、今にもこちらの身体を金属の削り屑にしようと迫ってくる。

「待て、待ってくれ!」
バズクローは必死に叫んだ。

一瞬前まで存在しなかった隔壁の向こうへ、ビッグホーンが消えた。
その時、隠されていた縦坑から、三体の警備兵が跳び出し、一斉にバズクローへ発砲する。
彼はどうにか銃撃をかわすと、最初のイオンディスクを構えた。
標的を自動追尾する円盤が、唸りを上げて空気を切り裂く。
黒と金の単眼機の頭部を刎ね、そのまま急旋回。青灰色の肩部キャノン型の背中へと深々と食い込み、飛び散ったオイルが、三体すべてに降りかかる。

残る一体――黒い迷彩模様の入った赤褐色の、腕部ミサイル型の警備兵――はあまりの出来事に驚いていたため、バズクローでも容易に撃ち殺せた。
イオンディスクを回収する。

だが、振り返った時には――通路は、先ほどとはまったく違う方向へと伸びていた。

そして、そこにはもう、仲間の姿などどこにもなかった。

バズクローは、完全に一人きりになっていた。

バズクローは、使える限りの通信周波数を次々と切り替えたが、返ってくるのは息苦しいほどの雑音ばかりだった。
予期せぬ通路の変形によって、内部ナビゲーションソフトウェアはすっかり混乱していた。
オプティック内に表示された地図には「信用するな」と大きな赤い警告表示が浮かんでいる。
ほかに選択肢もない。
バズクローはひとつの方向を選ぶと、暗がりの奥へ向かって、ゆっくりと慎重に歩き始めた。

フォートレスマキシマスは、長い間まともに整備されていなかった。
通路には錆と汚れが筋を引き、破損した配管や焼き切れた導管からは、ケーブルが力なく垂れ下がっている。
五枚に一枚の隔壁には、オートボットによる圧政を象徴する、厳めしい赤い顔が刻まれていた。

バズクローは歴史の優等生ではない。
それでも、その紋章がかつて象徴していた希望に思いを馳せると、少し悲しくなった。

進むにつれ、通路はますます複雑にねじれ、理屈に合わない構造へと変わっていった。
フォートレスマキシマスの内部変形は、どうやら不完全なまま終わったらしい。
そうでなければ、こんな構造になるはずがなかった。
ある時など、五分前まで床だった場所が、今は天井になっていると確信した。
センサーの記録を確認しようとしたが、やはり何の役にも立たなかった。

やがて、円形の扉が軋むような音を立てて横へ滑り、ドーム状の部屋へ出た。
壁は黒く、金属の表面には、磨き上げられた銀色のオートボットのエンブレムが嵌め込まれている。
室内にあるものといえば、直立した三枚の大きな板状の構造物だけだった。
いずれも、バズクローとほぼ同じ高さがある。
照明は薄暗かったが、その光は揺らぐことなく、深みのある青色に輝いていた。
その青い光が、磨かれた黒曜石のような壁面によく映えている。
どういうわけか、この何もない部屋だけは、長い歳月と放置による荒廃を免れていた。

「……誰かいるか!」
バズクローは呼びかけた。
自分でも、なぜそんなことをしたのかわからなかった。
返事はなかった。

部屋を慎重に横切ろうと淡い青い光の中へ入った瞬間、平衡回路に嫌な感覚が走り、異常が生じた。
HUDが激しく乱れ、そのまま完全に落ちる。もはや頼れるのは、純粋な視覚による確認だけだった。

その時になって、バズクローはようやく、この部屋がなぜこれほど清潔に保たれているのかを理解した。
低出力のステイシス・フィールドが作動しているのだ。おそらく何世紀もの間、ずっと。
バズクロー自身、革命の精神を自らのスパークの奥底から探し出すには、相当な努力が必要な方だ。
だが、ビルダーたちが、何のためなのかもわからないまま、これほど大量のエネルギーを消費する装置を長年にわたって動かし続けていたという事実には、さすがに思うところがあった。

朝を乗り切るためだけに補助電力ぎりぎりで配給所まで重い足を引きずっていった日々を思い出す。
もちろん、ゲームで大勝利を収めてからは、そんな暮らしも変わった。
だが記憶は消えない。
エンゲックスを飲めば、その苦々しさをいくらか鈍らせることはできたけれど。

――さあ、尋ねてみろ。

また、あの声だ。
これまで、ほかの誰にも聞こえたことはなかった。
だからバズクローは、酷使しすぎたセンサー・マトリクスに生じた不具合なのだと、自分自身を納得させてきた。

だが今はステイシス・フィールドの中心。
外部から情報を得る手段といえば、基本的なカメラとマイクしか残されていないというのに。

「……ここは、何なんだ?」

――いい質問だ。だが、君が本当に尋ねたかったことは、それではないだろう。

「お前は、誰なんだ?」

――それもいい質問だ。もっとも、その答えには、君自身すでに心当たりがあるようだが。
――本当に知りたいことを聞け。

バズクローの中に、普段ならあり得ないほど正直な感情が込み上げた。
誰もいない。
怖いと認めることが、初めて少しだけ楽に感じた。

「俺、生きて帰れるのか?」

――それは、君次第だな。

相変わらず、この声はろくな手掛かりを与えてくれなかった。
それでもバズクローは会話を続けることにした。
不安でハードドライブが断片化しそうなことは、なるべく悟られたくない。
「他のみんなは?」

――もっと奥だ。危険な目に遭っている。声を聞きたいか?

「いや」
言い切る前に、選択肢は与えられないらしいとわかった。
ステイシスフィールドがわずかに弱まり、通信が信号抑制装置を突破して、強引に流れ込んできた。
轟音。

耳をつんざくような音に、バズクローは膝から崩れ落ちた。
切羽詰まった声が、彼の音声受容器を引き裂くように響き渡る。

信号が安定するまで、それがサーケットの声だと気づくことさえできなかった。
『こっちにも敵がいる!まだ増えてる! もうエネルギーが残ってない! バズクロー? 誰かバズクロー見てない!?』
『サバイブ、分断された』
落ち着いてはいるが、苦悩を滲ませた声。
サイバーシャークに違いなかった。
『サーケットのところへ行けない。ビッグホーンの姿も確認できない』
『通信を続けてくれ。俺の発信する信号を追うんだ』
今度はサバイブの声だった。
その口調にも、不安が滲んでいる。
『廊下が動いたみたいだ。俺には……』
『どこから湧いてくるの!? いくらいるの!?』
またサーケット。
だが、その問いに答えられる者など、誰もいなかった。

「もういい!」
バズクローは、どうにかその言葉を絞り出した。
そして、今度はもっと小さな声で呟いた。

「……みんな、死にかけている」

――間違いなく。問題は、君がそれを気にかけているかどうかだ。
気にかけているのか?
自分は、本当に?
少なくともサーケットは、この部隊の中で唯一、自分に好意を持ってくれているように見えた。
「当たり前だろう。助けたいに決まってる」

――もちろんそうだろう。実に君らしい。
声は、乾いた含み笑いを漏らした。
――では、もう一つ私のわがままに付き合ってもらえるかな?

「断れる気がしないけどな」
バズクローは強気に言ったつもりだったが、実際に口から出た声はただ拗ねているようにしか聞こえなかった。

――誰にだって、選択する自由はある。
――君にだってな。
――いずれ、君にもわかるだろう。

その瞬間、バズクローは再び崩れ落ちた。
ウイルスを含んだ信号が、まるで薄いアルミ箔でも突き破るかのように、彼のファイアウォールを一気に突破してきたのだ。
バズクローは絶叫した。

彼はオプティックを開いた。
だが、そこに映った視界は、自分自身のものではなかった。
困惑して瞬きをすると、四体のマイクロマスターが、帯電したショックロッドを構えてこちらへ迫ってきていることに気づいた。
意思とは無関係に、片腕が持ち上がった。
最初の一体から武器を奪い取ると、巧みにショックロッドをひねり、その先端を隣の敵のフェイスプレートへと突き刺した。
続いて、ポリヘックス式レスリングの押さえ込み技を使い、最初の警備兵を床へ叩きつける。
その手をひねって外すと、もぎ取った手で三体目の警備兵の胸部を殴りつけた。
わずかな、しかし的確な圧力によってショックロッドが過負荷を起こし、爆発した。
爆風で吹き飛ばされたボットは、その背後にいたもう一体へと激突した。

――残念だ。

声が言う。

――あれはレーストラック・パトロールだった。ディセプティコンの出自にもかかわらず、いつも私に忠実だった。

バズクローは答えることができなかった。
目の前で繰り広げられる記録映像に、意識を集中させることを強いられていたからだ。
さらに二体の警備兵が、剣を手に頭上から飛び降りてきた。
彼の手首に装着されていた刃が飛び出し、最初の一撃を受け止める。
そのまま灰色のマイクロマスターの体勢を崩すと、二体目のスパークチャンバーへ、刃を深々と突き立てた。
ビルダーは激しく火花を散らし、瞬く間に生命活動を停止した。
だが、刃が死体に食い込んで抜けない。
そこで彼は手動解除機構を作動させ、刃を死体に突き刺したまま切り離した。
すぐさま身を翻し、もう一体の剣士へと向き直る。
左腕を持ち上げ、掌を開いた。
そこから、電荷を帯びた毒液が勢いよく噴射された。

敵は硬直し、火花を散らしながら倒れる。
液体が回路を過負荷させたのだ。

背後から聞こえた物音が、彼の注意を引いた。
バズクローは勢いよく振り返った。

目の前に、巨大なブラスター砲口。
警備兵が発砲した瞬間、通信が切れた。

バズクローは現実へ叩き戻される。
彼は身体を丸め、がたがたと震えながらうずくまった。
何の意味もないのに、ただ変形したいという原始的な衝動がこみ上げてくる。
バズクローは必死に、それを抑え込もうとした。

――こうしてコラーダは死んだ。

声が笑う。

――ダートディガーとスパークグリッド、モーターヘッドとローラーフォース、グラウンドホッグとバリケードを道連れにしてな。楽しめたか?

「……お前は、何なんだ?」

――もっといい質問があるだろう。“あいつは何者だった?”だ。英雄か? 一匹狼か? そして、親愛なるバズクロー。君は何者だ? ギャンブラー? 毒物中毒? イカサマ師?

最後の言葉が、バズクローを立ち上がらせた。
「俺はあのゲームに正々堂々勝った!」

――本当に? 一度も疑わなかった? 妙だな。私のスキャンでは、ほんの一瞬、疑念が検出された。滅多に外れないんだが。

「結果は公的記録に残ってる!」

また笑い声。

――ああ、親愛なるバズクロー。独裁政権の下で作られた公的記録だぞ? まさか、そこまで世間知らずではないだろう?

バズクローはもう、他人から”お前はこういう奴に違いない”だの、何だのと決めつけられることに、すっかりうんざりしていた。
「黙れ! そんなこと、今さらどうだっていいだろう!」

――本当に? なら、なぜ彼に聞かなかった?

「……誰に、何を?」

――ライオコンボイだ。君の試合が、彼が……“手を加えた”試合の一つだったかどうか。なぜ聞かなかった?

バズクローは黙り込んだ。
「……もう、ここから出たいんだが」
出口を探して振り向く。
だが、一歩を踏み出すよりも早く、古びた歯車が軋みながら回り始めた。
床そのものが回転し、バズクローの身体を強引に出口とは反対の方向へと向けていく。
彼は変形しようとした。
しかし、ステイシス・フィールドがそれを許さなかった。

――ライオコンボイは、考えもしなかったのだろうか。
――自分の行動が、どれほどの影響を及ぼすのかを。
――哀れなバズクローのことなど、考えもしなかったのだろう。
――凡庸な人生の中で、たったひとつだけ成し遂げた偉業。
――それが、たったひとつの疑いようもない事実によって、跡形もなく覆されてしまうことを。

――君は嘘の人生を生きていた。

――私たちの人生が、どれほど深く結びついているか、考えたことはあるか?
あの声は、まるで最初からそれが二人の話題だったかのように、言葉を続けた。

――私は、そればかり考えてきた。
――毎日、誰かと出会う。行動で、言葉で、互いに影響を与える。どこへ行ってもデータの痕跡を残す。
――玄関を出て、誰にも影響を与えずに済ませることなど不可能だ。
――ライオコンボイは、この惑星に住むすべての者に影響を及ぼすような出来事を動かし始めた。

――そして君、バズクローにも選択がある。
――だが、その前に、何が懸かっているのかを理解してもらわねばならない。

バズクローは、意を決して声を無視しようとした。
しかし声は、返事など必要とせず続く。

身体の内側で、何かが過熱するのを感じた。
思わず顔に手を伸ばすと、オプティックの周囲を密閉するガスケットから、冷却液が細く流れ出していた。
彼はそれを拭い取った。
「……どうして黙ってくれないんだ?」

――かつて、私は平和主義者だった。
――信じるかどうかは、君の自由だがね。
――私は、サイバトロンという惑星が、宇宙に巣食う癌と化してしまったことに気づいたのだ。
――なんという、悪趣味な冗談だろう。
――不死の秘密を手にした種族が、つまらぬ相違を理由に互いを滅ぼすことばかり考え、その戦争に何百、何千というほかの世界まで巻き込んでいったのだから。
――人生は打ち砕かれ、共同体は爆撃によって跡形もなく消し去られた。
――私は何世紀にもわたり、平和と寛容を説き続けた。
――それこそが、この狂気から抜け出す唯一の道だと信じていたのだ。
――戦争を終わらせるためには、互いを理解し合わなければならないのだと。
「……戦争は終わっただろう」

――ああ。そして、その終結には私も少なからず貢献した。
――だが、幾世紀もの時が過ぎ、絶望がますます深まっていくにつれ、私は悟ったのだ。
――言葉によって事態を正せると信じているのは、もはや自分一人だけなのだと。
――周囲には、荒廃しきった惑星が広がっていた。
――私の大切に思っていた者たちは殺され、君には想像もつかないほどの喪失を、私は経験した。
――そして、この身体を押しつけられた。
――プライマスよ、どうかお許しを。
――私は、それを受け入れてしまったのだ。

――このフォートレスマキシマスは、君をここへ運んできた輸送機が“君の一部”ではないのと同じ意味で、ビルダーではない。

――自己紹介をしよう。
――私の名は、セレブロス。

バズクローはメモリーバンクを探る。
一つの名前へ辿り着いた。
「ネビュロス大粛清……」


■p25
その頃サーケットのシステムは、一メガサイクル以上にわたって通常許容値を大幅に超えて稼働していた。
戦闘が始まって以来、仲間たちとともに何体のマイクロマスターを機能停止に追い込んだのか、ももう数えていない。全身がメカ液にまみれている。
どれが敵のものなのか、自分の装甲に開いた深い裂傷から出たものなのかもわからない。
体格差はあったが、ビルダーたちの燃料タンクには、おそらく四分の一程度の燃料しか残されていないことは明らかだった。

一方、こちらの部隊は全員、エネルギーを完全に充填した状態だった。
少なくとも、戦闘開始時には。
マイクロマスターたちは、ひとまず後退したらしい。
そこでサーケットは即席の作戦会議を始めていた仲間たちのもとへ合流した。

「ねえ、バズクローは? 誰か見つけた?」
「そのうち出てくるだろ」
ビッグホーンは心配しているというより、ただ苛立っているようだった。

「ああ、きっとどこか安全な場所にいるさ」
サバイブが、上の空で答えた。

「探さないの?」
サーケットは信じられないという顔をした。

「任務を続ける」
サイバーシャークがきっぱり答える。
「バズクローも、危険は承知の上だったはずだ」

――本当に?

サーケットは思う。

――私たちの誰か一人でも、本当にどれほど危険なのかをわかっていた?
――私が彼を誘ったせい?

「行くぞ」
ビッグホーンが言った。
「武器のエネルギーを充填して、出発だ。バズクローは自分の身を守るのだけは得意だからな。そのうち追いついてくるさ」


■p26~28
セレブロスは、なおも語り続けていた。

――ネビュロスが初めて危機に晒された時、私には戦う以外の選択肢が与えられなかった。
――人間たちの傲慢さが、私の許可も同意も求めることなく、私を戦いへと引きずり込んだのだ。
――この都市形態が、とうていその存在を受け止めきれない宇宙へと解き放たれた。
――何千もの命が私の砲火で消えた。何百もの者がキャタピラの下で潰れた。
――私は、単なる一体の軍隊などというものではなかった。
――形を与えられた大量虐殺そのものだった。
――私や、私のようなボットの存在こそ、休戦が我々へ押し付けられた大きな理由の一つだ。
――我々のような存在を戦争へ投入すれば、長く続けられるはずがない。
――そこで我々は、選択を迫られた。
――いや、私自身が、選ばなければならなかった。
――遥か昔に我々を凌駕し、ネビュロスの惨状を目の当たりにして「二度と繰り返させない」と宣言した人類と戦うか。
――あるいは事実上の降伏を受け入れ、一つの社会として自分たちと折り合いをつけるか。
――私は三世代続く人間と結合してきた。地球のシンギュラリティに間に合わず、それでもサイバトロン側についた者たちだ。
――その彼らが有限の命を終えていくのを見送った。
――そんな私には、人類連合に対して武器を向けることなどできなかった。
――だから私は、協定の署名者の一人となった。
――そして、ここで話は一周する、バズクロー。
――何世紀も前、私が迫られたのと同じ選択を、今度は君に与える。

バズクローは、アーチを描く天井に向かって叫んだ。
姿の見えない講釈の主へと、怒鳴りつけた。
頭が割れそうだった。
内部診断は、ニューラルネットワークのゲートウェイが次々と突破されていることを報告している。
侵入対策用のICEが、それに対抗しようと試みていた。
「さっきから、そればっかりだ! いったい、何を選べっていうんだ!?」

――私はサイバトロン社会がどうなりつつあるかを見た。
――枯れ果て、役に立たず、腐敗と停滞の吹き溜まりと化していく姿を。
――そして私には、その状況に対して何かを変える力を持っていた。
――もし私が介入し、惑星を征服し、あるいは他世界への襲撃を指揮してエネルゴンを奪おうと思えば、私に立ち向かえる者など、ほとんどいなかった。
――タイタンなら、あるいは可能だったかもしれない。だが彼らはとうの昔に失われていた。
――トリプティコンなら可能だったかもしれない。もっとも、勝てると確信できない戦いは好まなかったが。

セレブロスのゆっくりした一定の語り口は、不思議なほど……落ち着いた。
バズクローは、思いがけず自分の光学センサーが閉じかけていることに気づき、頭を振って意識を繋ぐ。

――ラザラス・ソサエティのことを知った時、私は規則を破って地球へ連絡を取った。
――彼らの使命は、シンギュラリティによって人類が我々と同じ不死の存在になる以前に死んだ、千三百億人の人間たちを蘇らせ、星々へ送り出すことだった。
――私は彼らへ頼んだ。
――私から多くのものを奪い、同時に多くのものを与え、そして……私の一部となった者たちを蘇らせてほしいと。
――だが、彼らは私の願いを拒んだ。
――その代わりに、ひとつの恩恵を与えられた。
――ベクターシグマに代わる、新たな生命の源だ。
――私は不安を覚えた。だが、それでも自分たちの種族に、何らかの未来を与えたいと願っていた。
――こうして誕生したのが、オートボットの後継種族、私の名を受け継ぐ者たち――マクシマルだ。
――私は、ディセプティコンにもまた未来が与えられるべきだと強く主張した。
――この新たな種族たちが、互いに、そして人類とも、調和のうちに共存できるのではないか。
――私は、そう願っていたのだ。

落ち着いた声は続く。
バズクローには耳を傾けることしかできなかった。

――だがアセンブリーが見たのは、古い憎悪を永続させる手段だけだった。
――一時は、戦争が再開するかに見えた。
――ゲームが始まった時、私は安堵した。
――少なくとも戦いは闘技場という限定された場所に閉じ込められる、と。
――私は何千年も生き、その大半で死ばかり見てきた。
――怒りに任せて最初の一発を撃つ前よりも、今の方が自分の平和主義に確信を持っていた。
――サイバトロニアンはあまりに危険すぎる。
――安全に封じ込めておく以外に、道などなかった。
――私の予測どおり、エネルゴンは枯渇していった。
――マクシマルとプレダコンの間にある、取るに足らない争いは、かつて都市だった場所に設けられた円形闘技場の中で、安全に繰り広げられるようになった。
――私は、それを見守り、待ち続けた。
――やがてサイバトロンは宇宙を忘れ、死んだ惑星と、星間帝国の抜け殻だけで満足するようになった。
――少なくとも、そうなれば。
――我々が遺してきた征服と破壊の爪痕を、少しずつでも修復し始められるだろう。

――私は、そう考えていたのだ。

「ライオコンボイが全部ぶち壊した」
バズクローの言葉は呂律が怪しかった。
だが口にした途端、頭部の痛みが少しずつ引き始める。
そして理解が、その声に滲み出した。

「レジスタンスがビルダーを倒したら……その後どうなるか、お前にもわからないんだ」

――いや。私は正確にわかっている。
――サイバトロンは、再び星々へと目を向けることになる。
――そしてライオコンボイが、その聖戦の先頭に立つだろう。
――本人がそれを望むかどうかなど関係ない。結果は避けられない。

「それが、なんで俺の選択になるんだ?」
バズクローは、刺すような口調で尋ねた。
「お前自身、俺を薬物漬けの役立たずだと言っただろ。星のことなんか知るかよ」

――その通り。君は気にかけないだろう。
――そして私も、君がそうするなどと思って話してはいない。
――だが、一つ考えてみてほしい。
――ライオコンボイたちが私の構造体を襲撃したのは、今回で三度目だ。

バズクローは目を見開いた。
「何だって?」

――そうだ。
――ずいぶん都合よく省かれた情報だと思わないか?
――過去二回の作戦。二回とも惨敗。
――望むなら戦闘ログを再生してもいいが……

「いや……いい。ほんとに、いい」
バズクローのニューラルネットワークは、新たに流れ込んできた情報によって激しく揺さぶられた。
なぜ、ライオコンボイは教えてくれなかったのか。
あるいは、サイバーシャークは?
どうして、誰もそのことを話してくれなかった?

――明らかに、彼らは君を信用していなかったのだろう。
――さて、それはなぜだと思う?

「……そんなことは、どうでもいい」

――本当に?
――では選択の時間だ、バズクロー。

部屋が動き始めた。その形が、刻々と変わっていく。
ほんの一瞬前まで継ぎ目すら見えなかった装甲板が分かれ、次々と新たな配置へ組み替えられていった。
だが、三枚の黒い石板だけは、その姿を保っていた。
それらはバズクローの傍らを、滑るように通り過ぎていく。

その表面には、レーザーによって刻まれた文字があった。
彼の光学アレイが、それを自動的に翻訳する。

スパイク・ウィトウィッキー。
ダニエル・ウィトウィッキー。
ガレン・ウィトウィッキー。

気がつくと、バズクローは一本の通路に立っていた。
そのすぐ隣には、よく似た別の通路が、並行して伸びている。
驚いたことに、二つの通路を隔てる窓の向こうには、レジスタンスの仲間たちの姿が見えた。
残る四人全員が、そこにいた。
彼らは満身創痍だった。
身体のあちこちからメカ液を漏らし、次にどう動くべきか、途方に暮れているように見えた。

――彼らは私の内部防衛へ大きな損害を与えている。
――無論、私は勝つだろう。
――いつもそうしてきた。
――だが、この戦闘が一秒続くごとに、善良で忠実なボットが死んでいる。
――問題は、君も彼らとともに死にたいのか、それとも私に協力して、数体を消すのを手伝い、ライオコンボイの見当違いな支配が本格的に始まる前に終わらせるかだ。

ライオコンボイの顔が、勝手に光学センサーの前へ浮かぶ。

――なぜ俺は彼に尋ねなかった?
――なぜあいつは言わなかった?
――本当に、今までの状態はそこまで悪かったのか?

これは、自分自身の考えなのだろうか。
それともセレブロスの考えか。
そして、もはやその区別がつかなくなっていることを、なぜ自分は気にも留めていないのだろう?

――結末は決まっている。
――彼らの破滅は確定している。

ビルダーの主張が、抗いようもなく、バズクローの思考へと入り込んでくる。
それでも、ほんのわずかな疑念だけは、まだ残っていた。

サーケットは友達だ。
サーケットは、自分を信じてくれた。
「俺には……あいつらが勝ってるように見えるけどな」

――一時的な錯覚にすぎない。
――いずれ、彼らも以前の者たちと同じように倒れる。
――だが君が私に協力するなら、彼らを助けることができる。
――サーケットも助けられる。

バズクローの内側で何かが折れた。
そして、崩れ落ちる。
「……俺に何をさせる?」

――簡単だ。
――収容区画を見つけたと伝えろ。
――私が渡す座標へ誘導しろ。
――あとは内部再構成で閉じ込める。

霧が晴れていく。
簡単だ。
安全だ。
誰にとっても、その方がいい。
「もし、あいつらがついてこなかったら?」

――その時は、何をすべきかわかる。

そしてバズクローは、本当にわかる気がした。
廊下が再構成され、仲間へ繋がる道が開く。
セレブロスの言葉が大脳皮質の中で鳴り続けている。
イオン・ディスクはいつでも発射できる状態にあった。

そして、回路の隅々に、不自然な温かさが満ちていった。


■p28~30

パネルが横へ滑り、バズクローが姿を現す。
サーケットは、彼を見た瞬間、外骨格から緊張が抜けるのを感じた。
バズクローは……安心しているように見えた。
重荷が降りたように。
平穏を見つけたように。
「みんな!」

「俺、見つけ――」
言葉は最後まで出なかった。
サイバーシャークが小さなキャニスターを凄まじい勢いでバズクローの頭へ叩きつけた。

衝突の直前、容器の内部から鋭い刃が飛び出す。
バズクローの光学センサーが大きく見開かれる。
口の端から液体が一筋漏れた。

サーケットが吠える。
「サイバーシャーク! 何してんの!?」

部隊の指揮官は、装置のボタンを押した。
病的な緑色のエネルギーが弧を描き、なおも痙攣を続けるバズクローの身体を貫いていく。
すると、低く、長く尾を引く絶叫が、通路いっぱいに響き始めた。
壁そのものが、苦痛に泣き叫んでいるのだ。

「あいつは“ひっくり返されてた”。フォートレスマキシマスにやられたんだ」

サーケットは完全に取り乱していた。
「な……どうして……?」

サイバーシャークの表情は動かない。
「奴はいつも、必ず誰か一人を取る。だからこれまでの作戦はすべて失敗してきた」

サバイブが悲しげにサーケットの翼へ手を置く。
「すまない。でも本当だ。今回は突破口が必要だった。そして、その切り札がバズクローだったんだ」

ビッグホーンはもっと冷酷だった。
「あいつの抱えてる荷物はルナ・ツーからでも見えそうだった。誰か一人が正気を失うとしたら、間違いなくあいつだ」
サーケットは口を開けたまま、サイバーシャークが傷ついたバズクローの頭部からキャニスターを引き抜くのを見ていた。
マクシマルは装置の側面にあるキーパッドを親指で操作し、目当ての新たなコードを見つけ出した。そして、そのコードを自らの搭載コンピューターのデータバンクへと読み込ませる。
「これだ。バズクローがセレブロスの制御室を見つけた。そこを潰せば、フォートレスマキシマスは死ぬ。俺たちも自由に動ける」
「待ってよ!」
サーケットは激怒している。
声は悲鳴になった。

「誰も、このことについて話そうとしないの!? たった今、仲間を一人殺したんだよ!」
「もう仲間じゃなかった」
サイバーシャークは、静かに言った。
「少なくとも、あの時点では」

「最初からそうだったかも怪しい」
ビッグホーンが、ぼそりと呟いた。
サイバーシャークは片手を上げ、静かにするよう合図した。
彼は、自分にしか見えない何らかの表示を、じっと読み取っていた。

「……見つけた」
やがて、そう言った。
「ビッグホーン、座標を送る。頼めるか?」
ビッグホーンは重装甲のジャガーノート・モードへ変形する。
その幅広い装甲が、通路をいっぱいに塞ぐ。
仲間たちを後ろに従え、彼は勢いよく前進した。

サイバーシャークが解読した地図に従い、一行は素早く進んでいった。
サーケットが周囲の位置関係を把握する間もないうちに、サイバーシャークが告げた。

「ここだ」
ビッグホーンはロボットモードへ戻る。
そこにあった制御室は、サーケットの予想よりもずっとありふれたものだった。
この一メガサイクルの間に目にしてきた、入り組んだ装飾的な構造とはまるで違っている、現代的な造りの灰色の部屋。
設置された機器類も、マクシマルやプレダコンほどの大きさの者が操作することを前提に設計されていた。

室内には、三体の小さなビルダーがいた。

マイクロマスターよりさらに小さいサイバードロイドが、等間隔に並んだ三つの収容架に収まり、配線で接続されている。
時折、びくりと痙攣する。サイバーシャークがバズクローにした何らかの処置によって、過負荷に陥っているらしい。
「これが?」
サーケットは尋ねた。
「セレブロスって、ビルダーか何かだと思ってた」
サイバーシャークが頷く。
「昔はな。セレブロスの体はずっと前に死んだ。残ったのは……」
彼は、三体の細い身体を指し示した。
「紹介しよう。グラン、プラズマ、そしてコードだ」
そう言って、サイバーシャークはコンソールを操作し始める。

ビッグホーンが緑色のサイバードロイドを掴み、収容架の窪みから力任せに引きずり出した。
彼女のオプティックが、何度か瞬いた。
そして、挑むような眼差しで一行を見据えた。

「……あなた、何者なの?」
サーケットは、険を含んだ声で尋ねた。

「私はプラズマ。だが私はガレンでもあり、スパイクでもあり、ダニエルでもある」
「私はセレブロス。セレブロスはゼブレス。エミッサリーでもある」

「私は男であり、女である」
「私は慈悲であり、恐怖である」
「私は自分自身の父であり、祖父であり、息子である」
「私はガスケットとグロメット。二人はコグであり、コグはコカとオノミスである」
「私は叡智であり、悲嘆である」
「私の妻は私の母であり、私の敵の娘であり、私の反対者と結合している」
「私は人間であり、ネビュロンであり、サイバードロイドであり、マクロマスターであり、メガマスターである」
「私は死であり、私は生命である」
「私はフォートレスマキシマス!」
彼女の手が、メインフレームへ接続されたままの青と赤のドロイドを示す。

「我々は――フォートレスマキシマス。我々は――」
ビッグホーンが彼女の身体を乱暴に揺さぶると、ようやくその取り留めのない言葉が途切れた。

サバイブがサーケットの方へ一歩近づき、その肩にサーボを置く。
「文字通り別のボットの脳モジュールになるよう設計された奴に、何世代分もの経験を積ませる。そうすると、他人の頭の中へ入り込むのが、本当に、本当にうまい奴ができる」

「その生来の能力を、倉庫ほどもある巨大なニューラルネットワークで増幅すると、強力な精神兵器になる」

「バズクロー自身は、自分の自由意志で俺たちを裏切ると思っていただろう。でも実際には、こいつらが少しずつ、あいつの精神を食っていた」

「だからサイバーシャークは、その場で殺さなきゃいけなかったの?」
サーケットが唸るように言った。

「残念だが、本当にそうするしかなかったんだ」
サバイブは優しく答える。

「バズクローは、俺たちを罠へ誘い込もうとしたはずだ。たとえ俺たちがついていかなかったとしても、予測では自爆して廊下全体を吹き飛ばした」

「だがあいつとセレブロスの接続は双方向だった。そのおかげで、俺たちはフォートレスマキシマスの制御中枢へ直接攻撃を仕掛けることができたんだ。すべての機能が停止したのは、そのためだ」

サーケットは呆然としていた。

その説明に救われたかった。

だが、今となっては、そんなことには何の意味もなかった。

「見つけたぞ」
サイバーシャークが言った。

「予想通り。いる。全員だ」
「そいつをこっちへ」
ビッグホーンとサイバーシャークが、サイバードロイドのデータジャックを無理やりコンソールへ差し込む。
痩せ衰えた手足が暴れるが、抵抗と呼べるほどの力はなかった。

「独房の扉が開いた。マイクロマスターたちも反応しているが、この基地の機能が死んでいる以上、奴らだけでは手が足りないだろう。この基地は死んだ。……どうやら、成功したようだ」

「よし。やるべきことをやれ」

プラズマのオプティックに、恐怖の色が走った。
「夜の高みに、ただひとつ、孤高の輝きを放つものではなく……」
意味の掴めない言葉で、彼女は懇願したが、ビッグホーンは小さなボットの頭部を握り潰した。
続いて、収容架の中でなおも痙攣を続ける青い仲間へ弾丸を撃ち込む。
赤い一体は肩へ担ぎ上げた。
半ば意識を失ったその身体からは、意味をなさない事実の断片が、さらさらと囁くように溢れ続けていたが、ビッグホーンはそれを無視した。

サーケットは、彼らが後に残した爆薬が炸裂した衝撃さえ、ほとんど何も感じなかった。

一行が監獄区画へ到達した頃には、戦闘はとうに終わっていた。
フォートレスマキシマスの巨大な両脚を占めるその収容区画から、マイクロマスターたちはすでに逃げ去っていた。


■p30

「なんで!?」
サーケットは、自分より大きなボットの胸を力いっぱい突き飛ばした。
「なんで私に言わなかったの!」

ライオコンボイは、悲しげな眼差しで彼女を見つめた。
「君が、彼に話してしまうからだ」

「フォートレスマキシマスに収監されていた者たちは、あまりに重要だった」
「チータスもいた。世界中から死んだと思われていた、最初のレジスタンス活動家だ」
「オートボットからマクシマルとなった、グリムロック」
「トライプレダカス評議会を創設し、のちにその座を奪われた、プレディトロン」
「そして、セレブロスのサイバードロイドの最後の一体であるグランさえも。彼は、情報の宝庫だ」
「全員が、サイバトロンの未来に必要なんだ」

「わかんないよ!」
「なんで私か、あいつに警告しなかったの? みんな知ってたんでしょ! 全員グルだった!」

「二回目の作戦では、そうした」
ライオコンボイが静かに答える。

「最初の失敗の原因がわかった後、全員にフォートレスマキシマスの精神干渉能力を完全に説明した」

「だが、彼はその警戒心を逆手に取った」

「最後には、全員が互いを撃ち合った。フォートレスマキシマスが見ている前で」

「だからあいつをハメたんだ」
サーケットの声が低くなる。

「あんたにも、あのクソビルダーにも、あいつが“ノー”って言えないってわかってたから」

「……残念ながら、そのとおりだ。サイバーシャークが、いくつかの数値を計算して……」

「数値」
その言葉には、脅すような静けさと悲しみが込められていた。

「あいつの人生全部を、数値にしたんだ」

「サーケット」
ライオコンボイは言う。
「君が今、話している相手は、何十年もの間、密かにゲームの勝敗を操作してきたボットだ。自分の政治的な声明を放送する時間を確保する、ただそのためだけに、スポーツ実況者を冷酷に暗殺したことさえある。私たちは、しなければならないことをする。私も、君たちも。誰もがそうだ。」

「彼を知った時間は短かった。だが、バズクローもそれを強く信じるタイプだったと思う」
ライオコンボイは背を向ける。

「彼の遺灰は、最大限の栄誉をもって散布される。その犠牲は、決して忘れられない。たとえ、彼自身が望んで捧げた犠牲ではなかったとしても」

だがサーケットはもうそこにはいなかった。

基地から怒りに任せて歩き去っていた。二度と戻るかどうか、自分でもわからない。

「どうして、彼女には理解できないのでしょう」
司令官の背後の暗がりから、サイバーシャークが姿を現した。

「いったい、何をするつもりなんでしょうか」

「彼女が、しなければならないと思ったことだよ」
ライオコンボイは答えた。
「私たち皆と、同じようにね」

訳注

専門用語や補足がある場合記載します。


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